真宵猫ー決着
「はあ……はあ……はあ……。」
どうする?
カレンに向け使った
泥でできた右腕でも痛みはあるようで異様に伸びた左腕で右腕の傷口を押さえている。チラリと見えた口元は怒りのためか歪んでいる。
ただ盾を使って軌道を反らされてしまったためカレンはまだ健在だ。
それに比べこちらは体内にある魔力は疾うの昔に使い果たし、残る魔力は杖に貯めていたもののみ、杖にある分貯めて練るこの二通りの工程を挟まなくてもいいがこれが尽きれば即負けが確定する。
多分だが向こうももう一度
どちらも満身創痍だがこのまま拮抗していても時間だけがすぎていき、もしかしたら向こうは泥の回復を行うことができるのかもしれないため不利になる前にこちらから攻撃を仕掛ける。
「貫け、【二級魔法:
杖に貯めた魔力を使うためいつもよりも素早く魔法が発動する。
よし!そう思ったのもつかの間、横から異様に伸びた左腕に全身を掴まれる。
「うぐッ――――!!」
飛行能力を持つ異形になったカレンが避けもせず
ガッツリと掴まれた
そのまま宙へと上っていき、怜を勢いをつけて地面へと叩きつける。
「うぐああああぁぁぁッ――――!!」
勢いをつけたとはいえまだ地面と接触するまで時間はある。付け焼き刃だが急いで自分に風の加護を全身に張り落下スピードを落とす。
さらに自身の体重を十分の一にする魔法と重力制御の魔法を用いて落下スピードをさらに殺す。
投げられた時よりも明らかに落下スピードを殺すことに成功したのであとは目視で落下地点にエアクッションを作る。
ただ落下スピードが下がったことはカレンにも見えていたようだ。そのため怜のいる場所まで急降下するとハエを叩くかのように落下中の怜を地面へと叩きつける。
「がはっ―――――!!」
せっかく落とした落下スピードを一瞬で無意味にされ、凄まじい衝撃が怜の胸部を強打する。
うつ伏せの状態で地面へと叩きつけられた怜、叩きつけられた衝撃で地面に窪みができている。
「がはっ!ごふっ」
口元を手で押さえる。ただ手で押さえるくらいでは止まらないほど口内から、熱いものが込み上げてくるのを止めることができなかった。とうとう口元から赤い血が地面に向けて降り注ぐ。
衝撃で折れたあばらが肺を貫いたのだ。呼吸もままならず血は止まることなく口元から流れている。
「……ひゅー……ひゅー……ひゅー……。」
呼吸が辛い。
幸い体重を十分の一にまで下げたおかげで手足や内臓は無事なようだがあばらと肺だけが全面に衝撃を受けたがため耐えられなかったようだ。
何とか体を起こすがめまいでうまく立ち上がれない。
満身創痍の体に鞭を打ち、片膝を着いてカレンに目をやる。
カレンもこの攻撃のためにわざと
「ごふっ!ふぅ~……。」
痛みで意識を失いかけ、痛みで覚醒へと導かれる。
ただそんな無理やりに体を起こすやり方も長くは続かない、もって三分ってとこか。
意識を集中し次の一撃にすべてをかける。
「アアアアァァァァァ――――――!!!」
最初に動きを見せたのはカレン、長くなった左腕を鞭のように使って怜へとぶつける。
これまでに分かったことだが異形のカレンは泥以外の攻撃手段は特にない。何故かわからないが魔法も使わないため厄介さは最初に戦った正気のカレンよりもない。
そして今泥を削り切り、満身創痍のカレンは捨て身の攻撃にシフトしている。
だから大きな隙が生じる。
相手の攻撃は最小限の魔法で防ぎ生じるはずの隙を待つ。
一本しかない腕が無数に感じるほど速い攻撃、ただ実際は一本。魔法で軽く腕を弾くだけでよろめく。
「――――――ッ!!??」
今だ。動きが鈍る硬直の瞬間、最速の魔法でケリをつける。
終わらせる、【三級魔法:
魔法が発動した瞬間、空には胸にぽっかりと穴を空けたカレンが浮いていた。
次の瞬間には口から血を吐き、ゆっくりと地面へと落下した。
「終わった……。」
終わったという安心感からなのか全身の力が抜け落ち前のめりに倒れる。
「おっと、お疲れ様、怜。」
倒れたときの衝撃は覚悟していたが何故か硬い地面ではなく柔らかい何かがクッションの役割を果たし痛みは伝わってこない。ぼやけた視界で目を開けると黒色の何かが見える。これは……先生の服、か?
「せん、せ……?」
「ええ、よく頑張ったわね、怜。お疲れさま、あとのことは私がしておくからゆっくりとおやすみなさい。」
「いえ……僕は……まだ……。」
「無理しないの。あなたは気づいてないかもだけど魔力回路の方も無理して使っていたからボロボロなのよ?今はいいから休みなさい。」
大丈夫だと言いたかったが体は疾くの昔に限界を迎えていたようでいうことを聞かない。
閉じていく視界に最後に映ったのは誇らしげな先生の笑顔。
その笑顔を脳裏に刻みながら怜の意識は先生の胸の中でゆっくりと奥深くへ沈んでいった。
何でも屋、万能堂の魔女 鐘上菊 @mira_gugu
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