アーキルは護衛対象の姫に謁見することになった。


謁見の場には、(控えているメイドと護衛の近衛隊員を除いて)2人の少女がいた。

どちらも年齢は同じくらい。まだ10才に届いていないくらいだろうか。背格好も似ていて、2人とも上品な服を着ている。


そのうちの片方の少女が、とととっとアーキルの前にやって来た。

少女A「あなたが、新しい隊長さんですね」

アーキル「ああ、そうだ」

副隊長「ちょっとアーキル、言葉には気を付けて!」

アーキル「ああ、すまん…。しかし、敬語なんか知らねえんだよなぁ」

副隊長「まったくもう…」


少女A「いいのです。…それでは問題です!あなたの護衛対象は、誰でしょうか?!」

少女はアーキルに問題を出してきた。

もうひとりの少女も近くに寄ってきて、おろおろしている。

最初の少女はニコニコと笑顔を浮かべながら、2人の少女を交互に指さしている。


アーキルは考えた。

この国の姫は、一人だけと聞いている。

この2人のうちどちらかがお姫様で、もう片方は同年代の侍女か何かだろう。

普通に考えて、物怖じしていない、先に話しかけてきた少女の方がお姫様だろう。

しかし、実は奥手なお姫様で、後ろでおろおろしている方が本物という可能性も考えられる。

アーキルは頭を使うのが苦手なので、それ以上考えるのをやめた。


アーキル「お前…いや、あんたか?」

アーキルは最初に話しかけてきた方の少女を挙げた。

少女A「いいえ、違いまーす!」

少女はしてやったりとばかりに満面の笑顔になった。


アーキル「じゃあ、そっちがお姫様?」

アーキルはもう一人の少女の方を見た。

少女B「…いいえ、違います…」

アーキル「あん?」


少女A「正解は、護衛対象は私たち2人です!」

アーキル「はあ?」

少女B「あ、あの、姫様はそうおっしゃっていますが、護衛対象は姫様だけですから!」

少女A「ダメですよ、おねえさまも守ってください!」

少女はアーキルに向かって訴えた。

アーキル「おねえさま? この国の姫は、一人じゃなかったのか?」


アーキルと一緒に来ていた副隊長が、ようやくここで口を挟んだ。

副隊長「姫様はこの方ひとりだ。そちらの子は姫様の侍女だが、生まれた頃から一緒に育てられているのだ」

少女B「はい、その通りです。私はセリアラといいます。よろしくお願いいたします」

セリアラは丁寧に頭を下げて挨拶した。


アーキル「お、おう…」


どう反応していいか戸惑うアーキルをよそに、お姫様とセリアラはきゃいきゃいと騒いでいる。

少女姫「おねえさまも私にとって大事な人ですから、立派な護衛対象なんですよ!」

セリアラ「いいえ、いつも言っている通り、大事なのは姫様だけですから!」


アーキルは思った。

強さを求めてきたはずなのに、行きついたのが子守りかよ!

しかしまぁ、少しくらいは付き合ってやってもいいかもしれない。

剣の腕がさび付かない程度には。



(第1巻―ミシア編―へ続く)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897091754

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深痕のミシア短編1―アーキル編― 真田 了 @sanada-ryou

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