十人組手

アーキル「来てしまった…」

アーキルは普通の国スタンガルドの首都オルジェクトに来ていた。


アーキルの全身を真新しい金属鎧プレートアーマーが覆っている。

前々から金属鎧が欲しいと思っていたが、基本的に全身を覆うタイプの鎧は個人の体格に合わせた特注品となる上に、アーキルはサラム人の中でも大きな体格なので、値段はさらに跳ね上がる。とても手を出せる代物ではなかった。

そこに、昇進を受け入れれば金属鎧が手に入るという餌が目の前にぶら下げられたのだ。アーキルが葛藤の末に餌に喰いついたのは、仕方がないと言えなくもなかった、かもしれない。


アーキルの昇進先は、姫様付近衛隊の隊長。スタンガルドのお姫様の護衛を行う近衛部隊の隊長である。

確かにこれは破格の昇進であった。普通は傭兵が近衛部隊に配属されることなどありえないからだ。ドラゴンを倒した者が名乗れるドラゴンスレイヤーという称号の効果であろう。


・・・


アーキルは、近衛隊の訓練場で、整列する近衛部隊の前に立っていた。


副隊長「傾注!」

号令をかけた副隊長はサラム人の女性である。アーキルが来る前は彼女が隊長だったので、表面上は降格だ。アーキルを恨んでいるかもしれないが、彼女はそういった事は口にしなかった。


アーキル「あー、諸君。オレが今回隊長になったアーキルだ。正直、余所者の傭兵が突然隊長になって、気に喰わない奴も多いと思う。オレだってそうだ」

アーキルは副隊長をちらりと見たが、彼女は真面目な表情を崩さない。隊員たちもだ。アーキルは内心で嘆息した。


アーキル「だが、安心してくれ。オレはここに長居する気はない。ほとぼりが冷めたら、元通り副隊長に隊長の座を返すつもりだ。それまでの実務も、今まで通りでいい。口を出すつもりはない」

それは責任放棄では…?という雰囲気が隊員たちの間に流れる。


アーキル「しかし、だからと言って侮られるのも癪に障る。なので、これから模擬戦を行う」

副隊長「模擬戦?」

アーキル「そうだ。オレの強さを見せてやる。お前たち10人vsオレ。正々堂々勝負だ!」


・・・


模擬戦は、乱戦形式。アーキル1人に対し、近衛隊の隊員全員が相手だ。

さすがに近衛部隊ともなると、連度が高い。個々人が勝手に動くことなく、副隊長の命令に従って連携してくる。

副隊長「第1陣、行け!」

隊員たち「「おおっ!!」」

隊員3人が一斉にアーキルを襲ってくる。だが、3人がかりということに躊躇が入ったのか。


アーキル「あめえ!」

隊員たち「「うわあっ!」」

3人はアーキルの両手剣グレートソードの一振りで簡単に弾き飛ばされてしまった。


副隊長「第2陣! 遠慮するな!」

隊員たち「「はいっ!!」」

隊員4人がアーキルを包囲する。

今度はさすがに一振りで弾き飛ばされるようなことはなく、アーキルと数合打ち結び、1人が倒される。

その隙にアーキルの背後から隊員が剣を振り下ろすが、アーキルの金属鎧に弾かれた。

アーキル「さすが、金属鎧プレートアーマーだぜ!」

新品だった鎧に傷が付くが、アーキルは気にしない。(アーキルが思ったのは、グリーンドラゴンを倒したときにこの鎧を着ていれば、魔液を浴びて怪我をすることもなかったのになぁ…であった)


1人が倒れた分空いた穴を、新しい隊員が参戦して埋める。

常に4人でアーキルに対応する構えだ。

アーキル「いいねぇ!近衛ってのもなかなかやるもんだ!」


さらに、上空から矢が射かけられる。

隊員の中には空を飛ぶ魔法を使えるシルフ人も2人いるのだ。

アーキル「ますますいいぜ!」

アーキルは矢を避けながら、着実に1人ずつ倒していく。


とうとう、副隊長も出撃した。

副隊長「さすがだね! 一人でドラゴンを倒したって噂も、まんざら出鱈目ではないようだ!」

アーキル「いや、どんな噂を聞いてるか知らんが、鵜呑みにするなよ?!」


アーキルと副隊長の一騎打ちの形になった。残った隊員は居るが、静観の構え。

副隊長は女性だが、サラム人だけあって力はかなりある。

しかしやはりアーキルの方が格が上だった。

副隊長はかなり粘ったが、とうとう剣を弾き飛ばされて、降参した。


副隊長「あんたの力、よく分かったよ」

アーキル「ああ。お前たちも、思った以上だった。これからよろしく頼む」

副隊長「こちらこそ」


アーキルと副隊長はがっしりと握手し、隊員たちの歓声が訓練場に湧き上がった。

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