僕がマッチのようで

色音

1本目

「久しぶりだね!奏君!」

成人式が無事に終わり1人帰ろうとする僕のことを引き止める。その声が発せられた先を見ると三年間中学のクラスが同じだった新井沙苗がいた。

「えーと、私のこと覚えてる…?」

僕が黙って彼女のことを見ていると少しはにかみながら問うてくる。

いくら黙っていてもこの場を打開できそうにないので、口を開き会話をすることにした。

「覚えてるよ。沙苗でしょ?」

そう口にすると彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。

「覚えてくれてるんだ!嬉しい!」

「そりゃあ三年間同じクラスだったからね」

「うん……。でも、奏君と玉君とせっかく三年間同じだったのに高校は私だけ別でちょっと寂しかったなぁ」

「ほんとかよ…?」

「ほんとだよ…!」

呆れ笑いのように僕が言うと食いつくように返答が返ってきたので余計におかしく僕が笑うと彼女は顔を赤くした。

「もう帰るの?」

「ん?やることないしね…帰る予定だね」

ふと彼女が聞く。

「えぇ?この後宴会みたいなのやるみたいだけど?」

「……あぁ。そうらしいね」

あまり参加したくないので少し顔を暗くし行きたくない雰囲気を醸し出す。しかし、そんな小細工も虚しく

「一緒に行こうよ?ね?」

「いやぁ……」

そんなやりとりをしていると後ろから唐突に僕を呼ぶ声がしてきて聞こえてないふりをしながらも沙苗の誘いを断り続ける。

「おい!やっぱり奏じゃん!無視すんなよなぁ?」

「ん?……あぁごめん。聞こえてなかった。玉か……」

なんとここに玉が合流しとうとう断れない雰囲気になっていく。

冗談じゃないが……3人でいることがつまらないわけではない。

沙苗がさっきしたような話を繰り返し玉として2人がこちらを振り向いて口を開く。

「んじゃ……いくぞ?奏?くるよな?」

「いやぁ……ちょっと用事思い出して」

「「くるでしょ?」」

「……はい」

2人のものすごい剣客を浴びて蛇に睨まれる蛙のようにビクビクして僕は2人に逮捕され会場まで連行された。

ザワザワと賑やかな声がいくつも聞こえてくる。

どうやってきたかも覚えていない。

どれくらいの時間が経ったかも分からない。

二人が気遣ってくれたのか3人でいる時間が長くて他の奴らもいるはずなのに僕の目の前に現れることは少なかった。

そこからさらに時間が経ち沙苗はペットショップでバイトをしながら勉学に励む医学生になっていて、玉は大学を中退しフリーのイラストレーターとして活動しているということを二人から聞いた。

どちらも今の生活を精一杯苦労しながらも楽しみ努めているのだろうか。

両方とも今を楽しんでいるような軽快な雰囲気が視える。ような気がする。

「いいなぁ奏君は売れっ子アーティストでしょ?」

「いやいや……まだまだだよ」

「謙遜するなよ!」

玉がゲラゲラと笑いながら酒を煽る。

「僕からしたら二人の生活はかなり羨ましいよ」

「「舐めやがって〜〜」」

そこから少し経って自分のグラスに注がれていたオレンジジュースが三度からになり全体が解散の流れとなる。

「んじゃ私はあっち行ってくる。じゃあね〜」

「俺もいくわ。じゃね」

「あぁ」

二次会へと突入する流れとなり僕らはその流れのまま自然と解散しそれぞれの世界へと戻り僕は本来の予定からかなり遅れた帰路を辿る。

帰りの電車のドアに寄りかかり外の懐かしい景色を眺めながら自分の住んでいた町から離れ今いる街へと風景が変わっていく。元から特別な愛着と記憶がないせいか眠い気持ちに逆らいながら立っていた。最寄りの駅で降りて帰りのコンビニで好みのエナジードリンクと一日三本と決めているタバコを一箱買う。

等間隔に並ぶ電柱の照らす明かりの部分と落ち込んだ影の上で眺みながらふらふらと酒に酔ってしまったのかのように千鳥足で歩き光と影の交錯とともに自身も暗くなり明るくなるのを反芻する。住んでいるアパートの軋む階段の音で音楽を奏で自分の部屋へと吸い込まれていく。

着替えもせずにコップに氷を掻き入れそこにさっき買ったエナドリをぶち込みベランダへと歩き鼻歌混じりにタバコの煙を吐き出す。

どこかで聞くこともないような音とふかし煙が宙へと消えていく。

今日会った二人を思い出し友達がいることを煩わしく思う時期が長かったと今になり僅かな後悔の念に囚われる。今更広げることも難しい。

僕が働いている業界はなんのせいなのか人との関わりが大切であるといいながらも、それは表面上の薄氷一枚分で最も反故にされ無下にされている気がする。

またまた鼻歌混じりに音とふかし煙が宙へと消えていく。

まるでそれが互いに踊り合っているようで不思議と楽しい気分にしてくれる。

今、3、4次会だろうか。ふと今日のことを振り返り今の状態を予想する。

沙苗は今誰かに抱かれているのだろうか。

なぜか一番に彼女が出てきた。

彼女は誰にでも優しさを振り撒くわけではないがどことなく親切で暖かく僕とは真逆で内面的にも外面的にもステキな人で適度な優しさをゆっくりと与えてくれた。そんな彼女のそれが当時気に食わなかったのか僕はゆっくりと離れて行った。でも気になっていたかと言われるともちろんと即答できるほどには好きだったんだろう。

玉は彼女と付き合い4年ほど経っているらしくもう結婚するらしい。こんな僕のことを招待してくれるらしい。僕より玉は客観的に見たら適当なやつだと思われるが自己目的がしっかりしていて自分を持っている人間だ。彼女さんにとってきっと良い旦那さんになるだろう。

僕は結婚式で幸せそうな玉を見て心から祝福できるだろうか?

今度は煙の片方が遅れ綺麗な円を描くことはなく音とふかし煙が宙へと消えていく。

コップにエナドリを足し炭酸の音が静かなベランダに響く。

虚無的空間に虚構的でありたい僕自身が静かに座る。

衝動的にタバコを一本吸い始め学生の頃から高価なエナドリを飲む。

なぜか分からないけど心を落ち着かせてくれる。

毎日毎日こういう時間が取れるわけじゃないが……。

なぜか今日はこういう気分だった。

仲が良かった友達も楽しいはずだった学校生活も気づいたら崩れて消えていた。

話しかけられるのを待っていても誰も来ないというように本人に楽しむ気がないと何事もつまらないのだという自分流の心理にどこかでたどり着くがそんな気にもなれずただ自堕落な生活を続けている。なんのための仕事なのか。その意味よりもなぜ僕がそれを選びしているのか。好きだったとか家から近かったとか……。

そういうことではなく……何というか……

なぜ……なのだろう。

理由なんてないだろうがなんの前ぶりもなく突発的にこういった気持ちに襲われることがある。

……僕だけなのだろうか。

絶対的な自信を持っている人もどこか自分は素晴らしいと思ってる人や博愛主義を掲げる人も〜あって欲しい。とか、〜だったらきっと。などと一度くらい考えてほしいと願ってしまうこの僕自身がまさに圧倒する何かに成るのだろうか。

分からない。

僕はこれから恒久。時を刻んでもわかりそうにない。

それでも僕はどこか安心できるように毎日何かに縋り生きているし、悠久的にもそう生きてきた。これからもきっとそうやって生きていくのだろう。

それが悪いこととは言えないだろうし。それが真の幸せなのかもしれない。

それでも僕の気持ち的には不満に感じることがある。

あの二人は永遠に変わることのないであろう何かを見つけるのが、上手かったのだろうか。そう適当なことを考える。

置き去りにされた気持ちを味わいまた音と煙が宙に踊る……。

でも、気づいたら二人との交友関係は薄くなっていて、これからさらに薄くなるだろう。このタバコのように時間が経ってゆっくりゆっくり消えていくのだろうか。

消えていくのを願いながらも片隅では消えないでほしいとどこか願っているようで、それでもどこか虚しく悲しく形容できない言葉が頭の中を行ったり来たり……

タバコを灰皿へとなぶり擦り頭をゆらゆらと振り気づいたら一箱全て終わっていてくしゃくしゃになった箱が佇んでいる。そして、ドリンクも消えていた。

それでも頭の中では、

またまたどこかで聞くこともないような音と共にふかし煙が宙へと踊り消えていく。

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