第2話 余命宣告

 「余命3日ほどですね」


冬の寒さもようやく落ち着き、ふきのとうが顔を出そうかという頃。白衣の男は神妙な顔持ちでそう告げる。その隣には少女とその母親がおり、少女の鼻を啜る音だけが響いていた。


「お父さん……」


そう呟く少女に触れられた彼の肌は白く、所々黒くなってさえいた。すでに状態が悪化している時に呼ばれた男にも、彼が変わり果てた姿になっていることは一目瞭然だった。日々悪化していく症状に男はどうすることもできない。


「それでは私たちはこれで。先生、ありがとうございます」


母親は、しばらくその場にいて「お父さん」と離れようとしない娘を引き連れて、その場をさっていった。彼女らとて生活があるのだ。ずっとここにい続ける訳にはいかない。


「さてと」


それは白衣の男も同じで、荷物を片付けその場を去る。この時期男の仕事は増える。この後も二件予定が入ってる。取り残された「お父さん」はどこか悲しげに佇んでいた。


 そしてちょうど3日が過ぎ、息を引き取った「お父さん」を前に涙を流している少女がいた。その母親は「心の中で生き続けるのよ」と何ともありふれた文句を口にするが娘にはあまり響いていない様だった。ただただ抱きしめるしか出来なかった。ただ、人間泣き続けることはできない。少女はひとしきり泣きはらすとどこかすっきりとした顔を見せた。


「帰ろうね」


今度は母親の言葉を素直に聞き入れ、家へ戻っていく。その手には可愛らしいバケツが握られており、その中にマフラーとにんじん、ボタンが入っていた。そこへパラパラと降り始めた雪がいくつか入ってはマフラーを濡らした。


 白衣の男は本日3件目の依頼を受け終えた。午後1時を過ぎたあたりで仕事が終わり、この後の予定も特にない。帰って映画でも見ようかという頃ふと思い出す。あの娘と「お父さん」を。男は家とは別の方向へ足を向けた。


 男が「お父さん」のいた公園に着くが案の定「お父さん」はいない。どこか複雑な気持ちになりつつもその場を去ろうとすると携帯が鳴った。


「あの、すみません。雪だるまの余命を教えてくださると聞いたのですが……」


「はい、私が雪だるま余命宣告師の竹中と……」


そう言った男の目にふと小さな雪だるまが目に入った。確かそこは「お父さん」のいた場所だ。その雪だるまは1人ぽつねんと公園の片隅に佇んでいたが、どこか楽しそうにこちらを見ている様な気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

[ショートショート]もし、ありふれた日常で 天白あおい @fuka_amane

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ