第41話
4. 南の城で雪合戦
一晩中降って次の日の朝、外を見ると…‥。
「真っ白、世界が埋まっちゃった」
一番下の窓板を外して、外を見た五つ窪みは言いました。
「よし、板滑りができるな」
鋼はそういうと、一番下の窓を塞いでいた板を、パタンと雪の上に倒し、窓板を上げるつっかえ棒を持ってポンと板の上におりました。途端に板は、スルスルと勢いよく下に向かって滑っていきます。窓の縁に引っ掛けるため、板の一番先の方がくるりと上に巻いていて、雪に引っかかったり、つんのめったりしない様にできているのです。
「わーすごい」
「五つ窪みもおいで。二番目の窓板を使うと良い」
「はい」
五つ窪みは板を外すと、雪ちゃんを体の中に入れて、鋼を真似て、一番下の窓から飛び出しました。
「東の森を回るぞ」
そう言うと、鋼は板を浮かせて、勢いよく雪の上を滑ります。
五つ窪みも真似して後を追いました。
「湖が、なくなってる」
昨日の雪で、凍った湖は雪に埋まり、世界の真ん中が真っ白な平地になっていました。
大きな鏡の様だった湖は、たった一日で雪の下に消えてしまったのです。
あんなに綺麗だった樹氷が、枝に雪が積もって雪の塊が立っている様になっていました。
雪の
「これから南の城に向かう。板の浮かせは軽くして、なるべく雪の上を滑べる様にしろ。その方がスピードが出る。支えの棒で方向転換をする。
湖を突っ切れば一番早いが、まだ氷が薄くて、五つ窪みには危険だ。森に沿っていけば、水に落ちる危険はない。日のあるうちに行くぞ」
「はい」
すごい速さでした。歩くと半日の道のりが、半分以下でついてしまいました。
「まあ、鋼どうしたの?」
オオジロが驚いています。
「やあオオジロ、避難訓練さ。万が一、北山の誰かをここへ運ばなくてはならなくなった時のために、五つ窪みに練習させたんだよ」
「あ、それで」
万が一。それは雪ちゃんの事だと、すぐに五つ窪みはわかりました。
「雪ちゃん、平気、寒くなかった?」
「平気、五つ窪みが走ったから、暑いくらいよ」
「やっぱり大丈夫だったな、さすが五つ窪み。もう少ししたら粉雪本番になる。そうしたら寒すぎて危険だからね。今のうちに練習させたんだ」
「鋼は、温泉を入れてきたのか。もう冷えたんじゃないか?わしらは石を焼いて布に包んだのをいれて凌いどるがな」萩さんが言いました。
オオジロも、縁の上から湯気を白く出しています。
「相変わらず、タフですね。さすがオオジロ。でも五つ窪みはもっとタフなんです。五つ窪みならこんなことしても大丈夫」
鋼は、真っ白な雪原から雪を一掴み浮かせると、ヒョイと、五つ窪みの取っ手の金色にぶつけました。
「わっ冷たい」五つ窪みは飛び上がりました。
「五つ窪みに何するのよ」
そう言うと、ゆきちゃんが浮かせた雪玉が、鋼のど真ん中に命中しました。
「やったなー」鋼の雪玉がまた五つ窪みに命中。
すかさず雪玉を作って投げ返す雪ちゃん。
「ちょっと、痛いのは僕なんだよ。二人とも、やめてー!」
「お、おい。鋼、子供相手に喧嘩はやめんか。わっ、冷たい」
萩さんもやられました。
「このー」
鋼の投げた雪玉を、五つ窪みが避けると、後ろの雪が積もった桜の木にあたり、その雪がどさどさと、そばにいたオオジロに降りかかったのです。体の中の熱した石が、ジューっと音を立てました。
「やったなぁ……」
オオジロが怒り爆発。巨大な雪の塊を浮かせました。
「ごめん。オオジロ、ちょっと待って!」
ドカン!
鋼は雪に埋まってしまいました。
5. 思い出と思い出したこと
「良い年して、姉弟喧嘩もないじゃろ。喧嘩するほど仲が良いと言うし、二人とも頑丈だから心配はいらんが。昔は白様と黒様を散々手こずらせてたんじゃよ」
ペチカに薪を入れながら、萩さんは雪で冷えた鋼の湯の中に、ペチカの火で熱く焼いた石を一つ入れました。オオジロの冷えた石も取り替えました。
「はー」と鋼。
「ふうー」とオオジロ。
二人ともすっかり冷えていたので気持ちよさそうです。
「二人とも休んでて。僕もっと薪持ってきますね」
五つ窪みの大きな影がドアから外へ向かいます。
「でも、喧嘩したの久しぶりー。アンタが生まれたての頃はヤンチャで、いつも喧嘩してたわね。私が硯のことばっかり褒めるから、アンタ硯に憧れて、硯の真似ばっかりしてたっけ。いつだったかな、身体中にペチカの燃え残りの煤を塗りつけて『僕、硯さんみたいに黒いでしょ。カッコいい?』って。
そうして一生懸命硯のこと勉強して、いまじゃ立派なお医者様だもの。
金継ぎも上手くなって……十六夜があれだけ生きられたのはアンタのおかげよ。本当にありがとう」
「僕のほうこそ、あの時金箔を譲ってくれてありがとう。十六夜が死なずに済んだのはオオジロ姉さんのおかげだよ」
「あ、姉さんって言った。アンタがそう呼んでくれなくなってから、私ずーっと寂しかったんだよ」
「仕方がないでしょ。お互いもう大人なんだし。立場ってものがあるんだから」
「私、ずっと子供でいたかったなー」
「そうだね。何にも知らなくて、欲しいものは全部手に入に入ると信じてた頃に戻れたらな」
「こうやってると、二人で一冬一緒に、火の番してた頃思い出すね」
二人は黙って並んでペチカの火を見ていました。
ペチカの横の開いたドアから、お日様の優しい光が、暖かく差し込んできます。
「今日は本当に暖かい。小春日和というやつだ。こんな日がずっと続くといいのにのう」
萩さんが、ポツンとそう言いました。
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