第33話 

 12. 別れの舞~十六夜の最期


「ただいま十六夜さん、あの雪ちゃんがねぇ」


 叱られるかな……と覗くと、十六夜さんが一人ぼっちで座っていました。いつも必ず誰かがついているので様子が変でした。


「十六夜さん、どうしたの?具合悪いの?」

 雪ちゃんがかけよると、初めてこちらに気づいたらしく、

「よかった。捕まらなかったのね。」

 十六夜は雪ちゃんをベールで包み込みました。


「十六夜さんが、五つ窪みから離れるなって言うから、気をつけてたの。でも踊り子さんにはなりたいから、明日から毎日、五つ窪みに乗ってお城に通うの。いい考えでしょ」


「まあ、お利口さんね。きっと世界一の踊り子になれるわよ。最後に会えてよかった」

「十六夜さん、辛いんですか? 僕、鋼さん呼んで来ます。」


「いいえ、だめ。あの人は『君の死ぬところなんて見たくない』と言って出て行ったの。

 私はね、あの人の昔殺した産まれたての生き直しなの。私は鋼の中の涙に心を溶かしてあの人の名前を伝えようと思って産まれてきた。でもダメだった、鋼は嫌だって。

 せめてあの人に託された仕事だけはやり遂げる。雪ちゃん、たった一日の名付け親だけど、先輩の踊り子として踊りを一つ教えます。

 オオジロ様は、これが踊れたものには何でも欲しいものをあげると言った。今年最後の満月祭の夜、これを踊って欲しいものを言って。これが私の最後の舞い、よく見てね」

 十六夜は外に出ると踊りだしました。短くなった日が西に傾きかけていました。



 ◇



「おい、鋼が東の山に来たんだが、様子が変なんじゃ。十六夜を一人で置いてきたって、どうして……あわわ! 十六夜が踊ってる。それも“もう一度逢いたい”じゃないか」

 東の森から、帰ってきた萩さんが腰を抜かしてしまいました。


 命を削ると言われる踊りです、でも止められませんでした。五つ窪みも雪ちゃんも全く動けずに、ただ見続けることしかできなかったのです。


 萩さんと一緒に、森の仕事から帰ってきた北山の仲間たちも同じでした。

「生きてるうちに、もう一度これを見られるとは思わなかった」

 そう言って泣くものもいました。


 十六夜の命が燃え尽きようとしていました。最後の金色の汗が高く上った時、真上の空に右半分の上弦の月が浮かんでいました。踊り終わった十六夜は、萩さん、五つ窪み、雪ちゃん、北山のみんなの涙と歓声に包まれて、満足げにすっくと立っていました。それは世界一の踊り子の姿でした。

 そして最後にゆっくりと東の方を見たのです。


「鋼、私はやっぱり踊り子にしかなれなかった。さようなら」

 十六夜の体の金継ぎの金が、ピシッと音を立てはがれ落ち、体に描かれた丸い月が二つに割れました。

 まず左の下弦の月が少しゆらゆら揺れて、倒れると同時に砕けました。

 残っていた右の上弦の月も、それと同時に砕け散り、金色の魂が天に帰っていったのです。


 東の山で鋼は、それを一人で見ていました。

 それから泣くために、白様のいる墓場に、ゆっくりと歩いて行きました。


















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