第31話
8. 置き去り計画
「別にええんじゃないか。見つけたのも助けたのも、お前じゃし。ルールがなんじゃ、この子はお前に懐いとる。お城なんかに行かんで此処におりゃあ良い」
「ちょっと、萩さんこっちへ」
鋼は、萩さんを引っ張って外に出ていきました。
「なんて無責任なことを言うんですか、あの子の薄さを見たでしょう。北山の火山の熱だけじゃ、あの子が生き延びられないのは、はっきりしてるのに!」
「じゃあ城のペチカなら、何とかなると?あれは何をやっても冬は越せない踊り子の質じゃ。だが、ここには五つ窪みがいる。あの子の中で冬を起こせばいい。決して冷えないカップだと言ったのはお前さんじゃ」
「そのとおりです。医者として、あの子が今までの方法で、冬を越せる可能性は全く無いと思います。ですがそれはルール違反だ、それに五つ窪みはまだ冬を越してない」
「全く、オオジロといい、お前さんといい、どうしてそうルールにこだわるんじゃ。前の時代を知っている者にしたら、命とルールとどっちが大事かと言いたいわい。命の方じゃろが! またお前さんと十六夜の不幸を繰り返して良いと言うんか。あの子供は五つ窪みにべったりじゃぞ」
「だからです! 早く手を打って傷の浅いうちに忘れるようにしないと。僕と十六夜は冬の間中一緒でした。まだ一日目だ。大丈夫です」
「……本人の気持ち次第じゃの」
萩さんはしぶしぶ言いました。
鋼は五つ窪みを外に呼び出して、雪ちゃんをお城に届けて、そのまま置いてくるよう説得しました。此処にいても、冬を越せないと。
初めは渋っていた五つ窪みも、とうとう同意しました。
「何の話?お城に行って踊り子さんになる相談?」
十六夜のそばで、雪ちゃんは不安そうです。
「踊り子になりたいの?」
「うん。だってすごく綺麗なんでしょ?」
十六夜の問いに、雪ちゃんは元気に答えます。
「そうね。でも、もし嫌になったらここに逃げてらっしゃい。そして、名付け親の名は十六夜だと言うの。この世界は、名付け親と育て子は、恋をしてはいけないルールだから。
そして、もし五つ窪みが好きなら、決してあの子のそばを離れないのよ」
小声で、十六夜がそう言いました。
「雪ちゃん、お城に行くよ」
五つ窪みが外から呼んでいます。
「うん、十六夜さんまたね」
何も知らずに、元気に雪ちゃんが飛び出ました。
「さ、僕の中に入って。すごく遠いし、僕に乗って行ったほうが早いから」
「うん!」
外に出てきた雪ちゃんを見て、みんな驚きました。こんな薄くて綺麗なカップを、誰も見た事がなかったからです。
ぴょんと跳ねて、五つ窪みの中に収まる雪ちゃんの身の軽いこと!
誰が見ても、最高の踊り子の質でした。
「さあ行くよ、飛ばすからね」
五つ窪みはわざと明るく言うと、南の踊り子城へと駆け出しました。
北山のみんなは次の満月の祭りに、あの子がどんな踊りを見せてくれるのか楽しみだと話ながら、薪を切りに東の山へ戻りました。萩さんも一緒です。
鋼が十六夜と話があるので残ると言ったからです。
9. 鋼と十六夜の別れ
「雪ちゃんをお城に置き去りにするのね。私の時のように」
十六夜が下を向いたままそう言いました。
「早い方が良い。あの子は此処では冬を越せない」
「お城のペチカでも、あの子を守れないのはあなただってわかるでしょうに」
「これ以上の揉め事はもうたくさんだ、僕は君のことでもう手一杯なんだよ」
「昔のあなたなら、そんなこと言わなかった。私のせいなのね」
十六夜は決心したように話し出しました
「あの子にあって私、思い出したの。あなた本当は、私があなたの殺した子供の生き直しだと気づいてたんでしょう? 私、自分の死んだせいであなたが“カップ殺し”と言われて、踊るのをやめてしまったと知って、あの人に生き直しを頼んだ。『私が鋼にあなたの名前を届けます。黒様と同じ名誉を鋼に与えてください』と言って。
でもあの人は駄目だと言った。『無理だ。お前の願いと鋼の願いが一緒になる事は無い。だが、鋼のそばにいたいと言う願いは、叶えてやろう。代わりに、お前は最後の踊り子の名付け親にならねばならない』
そう言って、この世に来たの。今、あの人の言葉が現実になった。雪ちゃんが、この世界最後の踊り子よ。私、あの子に『名付け親の名は、十六夜』と言う様に言ったの。これでこの世の私の仕事は終わった、私はもうじき死にます。」
「死なせたりするもんか! 昨日調べて確信した。五つ窪みの体は全身が金で出来ている。
それも“決して冷えない金”なんだ。
あれを削って、君の全身に貼れば、君は今年の冬を越せる。もしかしたら萩さんのように永遠に生きられるかもしれない」
「なんて恐ろしい事を言うの。私のために五つ窪みを削ると言うの! あの子がどれだけの痛みに耐えなきゃならないと思うの。あなたはそんな事考えたりする人じゃなかったのに」
「そうだ、君が僕の全てを狂わせたんだ。僕は踊っていれば幸せだった。
なのに、前世の君のせいで、踊りを諦めた。僕があんなに踊りたかった『もう一度逢いたい』を、君が踊ったとき、僕がどんなに悔しかったか君にわかるのかよ!」
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