第15話 

 4. 五つ窪み、萩さんと森に行く


「オオジロさん、白様といると全然威張ってないの。名付け親って凄いね」


 お城から帰った五つ窪みは、煉瓦の弁償は変わりませんでしたが、お城に出入り禁止を解かれたことを伝えました。


「そりゃそうだよ。もし君が大人になった時、転んで大泣きしたことや、壁壊して弁償するために運んだ丸太で、さらに門まで破壊したことを僕に言われたら、威張っていられるかい?君はたった2日で、それを全部やったんだよ。あはははは」


 鋼は、五つ窪みがお城の踊り子たちに乗り回されたのを白様に聞いて、まだ笑いが止まらないようでした。


 鋼の言葉に五つ窪みは、二日間で五回のションボリを思い出して、またへこんだのでした。


 白様は、笑い疲れて十六夜の横で眠っています。

 黒様が死んでから、初めての安らかな眠りでした。

 鋼は本当は、心の中で五つ窪みに感謝していたのです。


「ぼ……僕、木を切ってくる。薪作らなきゃいけないもの」

「やめなさい! 一人で行くのは許可できない。それに昨夜は寝てないだろう?休まなきゃ駄目だよ。これは名付け親としての命令だ」


「じゃあ、木の苗に水やってくる」

「そう言って昨日も出かけて、お城の門を壊したじゃないか」

「じゃあ、じゃあ……」

 五つ窪みは、半べそになってぐるぐる回り始めてしまいました。


「五つ窪み、明日ワシと森に行かんか? 木の実を植えて新しい苗を作るんじゃ。そして東の草地を、みーんな森にするんじゃ。どうだ?」


「行く!」

 切り欠きの萩さんの言葉に、五つ窪みのグルグルが止まりました。


「萩さん、いいんですか?漆作りにはまだ早いでしょう」


「もう霜も降りんし、去年拾ったドングリも貯めてある。どうせこの子も覚えなきゃならん仕事だ。わしがちゃんと見とるから鋼も安心せい」


「すいません、よろしくお願いします」


 鋼に何度も取っ手を下げられて、次の日萩さんは五つ窪みを連れて東の森に向かいます。

 萩さんの切れた高台の幅に合わせて、二人はゆっくりのんびり歩いていきました。




 5. 理想のパートナー・白様と黒様


「あそこに見える白くてシマシマの木、あれが白樺。あの皮はガンピと言って、乾かすとよく燃える。焚きつけの時便利なんじゃ」


「白くてすごく綺麗だね」


「綺麗か。ワシみたいな年寄りは、木は何の役に立つのかしか考えんが、産まれたては違うんじゃの。すっかり忘れとったわ、はははは」


 萩さんが笑うと、五つ窪みは、硬くなった心が柔らかく溶けていくような気がしてきました。あまりに色々なことが続いて起きて、五つ窪みは自分の心がとても疲れていたのに気付く暇もなかったのです。

 だから萩さんは五つ窪みを森に連れてきたのでした。


「あれは杉の木、真っ直ぐ伸びてノッポになる。良い木なんじゃが、葉っぱがチクチクしてベッドにはむかん。

 ベッドにする葉っぱは、こんな広がったのを使う。いろんな葉っぱがあるじゃろ」


「本当だあ。みんな形が違う」


「こっちは松の木、この松ぼっくりが種」


「面白い形だね。このくっついてるネバネバしたの何?」


松脂まつやに、ロージンとも言う。これから取った油を漆に混ぜて金継ぎに使うんじゃ」


「ロージンって、黒様のパートナー名だ。黒様ってネバネバしてたの?」


「違う、違う。これは水につけると分かるでな」


 萩さんは湖に降りると、松ぼっくりを水に投げ入れました。水面に松脂の油が広がり虹色に光ります。


「わあっ、綺麗! 黒様の似姿の内側の模様に似てる」


「じゃろ? 黒様は、自分が黒くて綺麗じゃないと思い込んでいた。

自分の中は自分で見えんからな。

だけど白様は、ちゃんと黒様の綺麗な所を見つけて

“虹色のロージン”と呼んだんじゃ。 

 

 黒様は世界が変わった後、あの人の言った“私の望む願い”の答えを探し続けて、よく長い間蹲っていた。

 すると白様は、『落ち込みロージン、空っぽロージン、松笠入れにピッタリちゃん』と歌いながら、松脂のついた松笠をポンポンなげ入れたのさ」


「ええっ! 白様、黒様にそんなことしたの?」


「そうとも。怒った黒様が立とうとしても、あんまり長く蹲ってたから、心も体も硬くなっていてうまく動けん。

 その取っ手を持って、松笠が全部飛んで行くまで振り回したのさ。

 世界を変えた英雄にそんな事するのは、白様くらいよ。


 当然体の中は松脂でベトベト。

 仕方なく湖で洗うと『少しは心が涼しくなったでしょう?』と言ったんじゃ。

 水に浮かぶ虹色の光を見ながらな。

 もちろん黒様はそれで元気になって、もう蹲ったりしなくなった」


「すごーい、良いなあ。白様、黒様の事何でも分かってるんだ」


「そうとも、世界を変える願いを叶えられるほど、二人の心はいつも一緒だった。

 誰もがあの二人のようなパートナーが欲しいと憧れたもんじゃよ」

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