十六.誕生

 十二月二十四日。午前十時。


「いよいよだね。今日が来たね」

「うん。優雨、哲也、ありがとう。テリーが喜んでるよ」

「家族だよ、あたしたち」

「俺たち四人はこれからもずっと家族だよ。もうすぐ一人増えるし、大家族になったな」

「あんたたちさぁ、ここから年子で十人とかはやめてよね。子守でこき使われるあたしの体力も考えてよ、ほんとに」

「年子で十人って、あたしこの先十年間、ずっと妊娠してるの?やだよ、一年の三分の一が悪阻なんて、絶対無理だから」

 みんなで笑った。

 私たち三人がいつも笑っているので、スタッフの女の子たちもすっかり打ち解けている。

 亜美は店長としても素晴らしい働きをしていた。人の使い方がうまい。決して相手に押し付けるようなことなく、やる気にさせて動かしていく。この子にこんな才能があったなんてと思ったが、これもテリーが開花させてくれたのだ。何から何まで、本当に凄い人だよ、テリー。


「亜美さん!」

 スタッフの一人、楓ちゃんが亜美を呼ぶ。

「ん?どした?」

「これ、二人で作ったんです」

 楓は淡いピンクの包装紙に包まれた箱を差し出した。

「なに、これ?」

 もう一人のスタッフ、幸恵がにやにやしている。

「開けてみてくださいよ。頑張って作った自信作だから」

 亜美がカウンターにいる私と哲也の間に来た。カウンターの上で包装紙を丁寧に開く。白い化粧箱を開けると、中には木製の青いフレームに瀬戸内檸檬色のガラスが散りばめられた、ステンドグラスのフォトフレームが入っていた。

「これ・・・作ってくれたの?」

「はい、あたしこう見えてステンドグラス作るの趣味なんですよ」

「こんな素敵なものを・・・ありがとう。本当にありがとう」

「あ、亜美さん、そのフレームは私が作ったんですよ。あたし、木製のミニチュア家具とか作るの、趣味なんで」

「そんな、二人ともどうして・・・ありがとう。テリーも喜んでくれてるよ」

 二人の真心が込められたフォトフレーム。なんていい子たちなんだろう。これもテリーが授けてくれた贈り物だ。

 亜美がカウンターの後ろにある写真を持ってくる。フレームから外して、新しいフレームに写真を入れた。二人の笑顔が今まで以上に輝いている。なんて素敵な贈り物なのだろう。

 亜美は元あった場所へフレームを置いた。

 これでTerry'sは完全な形になった。


「はぁ・・・すっかりやられたわ」

「やられたって、あんた。素直に喜べ」

「だってさ、これじゃあたしのサプライズが目立たないじゃん」

「え?」

「楓ちゃん、幸恵ちゃん、もう出していいよ」

 二人が奥の部屋から大きなボードを持ってくる。

 青空色の布がかかっている。

「ほら、これはあたしからのサプライズ。このお店最初のイベントだからね、感謝しなさいよ!」

 哲也と一緒に布を引く。


『Happy Wedding‼︎』


「オープン初日はあんた達の結婚式、六時からやるからね、お二人さん!」

「亜美・・・」

 亜美が優しく抱きしめてくれた。哲也も抱きしめてくれた。

 家族って、素晴らしい。


 クリスマスイヴ。

 恋人達が葉山の街で歩みを留める。

 波音が街を彩る笑顔に背景をつけた。


「さ、行こう」


 全員で店の前へ出る。

 亜美がサインボードをOPENに変えた。

 テリーの店が、葉山に誕生した。

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