第4話
あと少しで、最寄りの駅に着く。叔母ではないことを考慮し、最寄りの駅から実家までの道のりはもう別の手を打った。これで心置き無く、叔母かどうか確かめられるわけだ。
どうするべきか。待つか、話しかけるか。
実家までの送迎は親に連絡したから、ぶっちゃけ叔母でなくても、まぁいいちゃいい。本当に叔母かどうか、ただ気になるだけだ。マスクなんてなければこんな思いはしないのに。
窓越しでも、直接でも目を合わすことはない。そもそも、他人とわざわざ目を合わすことなんてしない。する人は不審者だし、気持ちが悪い。
カウントダウンのように電車は各駅を通り過ぎて行く。電車が駅に着き、扉が開く度、叔母が降りるのかどうか気にして見るが、降りない。ここまで来たらますます叔母な気がしてきた。
もう遅いかと思うが、気にしても仕方がないしこれ以上チラ見しては不審者だ。変人だ。やめよう。こんな不毛な賭けは。
とりあえず、他人ということにして私の好きな音楽でもかけながら優雅に時を過ごそう。電車で音楽を聞くなんてなんて贅沢なんだ。
また、駅に着く。でも、叔母は降りない。
次の駅に着く。でも、叔母は降りない。
こりゃだめだ。降りる気配すらない。もう、私が降りる駅に着いてしまうよ。どうなるんだろう。
テロンテロンのリュックが目に付く。
本当に叔母だった場合なんて話しかけよう。久しぶりだね的な話をしようか。そして、なんで帰ってきてるのなんて質問されるはずだからその問いを答えて、近くにいたのになんで私に気づかなかったのとか責めよう。何時間も同じ空間に過ごしているのに気づかないなんて、ショックだみたいな話をしよう。
次の駅が私の実家の最寄り駅だ。
降りる準備をしなくては。あまり物をかばんから出してはないけれど、スムーズに降りられるようにスマホ、切符の位置を確認したり立つ心の準備をした。
自分の準備が整い、ぼーっと窓の外を見た。通路を挟んだ隣の席の叔母も降りる準備をしている。
まさか本当に叔母なのか……。
また、期待し始めた。
もう隣は見まいと思い、窓を奥を見る。馴染みのある風景だ。大学進学をきっかけに私は地元を離れた。親は地元に戻ってくることを望んではいるが、一人暮らしの楽さを覚えたことと地元の就職先の少なさから帰ることを選ばなかった。年に何回かしかこの風景は見ないのになんの感情もなくすんなりと受け入れる。
まぁ、定期的帰ってきてるから懐かしさなんて感じないのだろう。それくらいの距離感であり続けたいけど、年々歳を重ねていくと帰って来るのは難しくなっていくのだろうな。
あーーあ、どこでもドアがあればいいのに。
最寄り駅に着くというアナウンスが車内に流れた。ぼちぼちだ。再度降りる気持ちを作る。
徐々に近づく駅。駅のホームが窓に流れた。
駅に着いた。電車が完全に止まったところで立ち上がり、身体を通路へ移した。
通路を挟んだ隣の席が視界に入る。今まで座っていた叔母を見る。
目の前にいる人物は誰でもない、知らない人だった。
良かったー。話しかけないで。横顔はめっちゃ似てたんだけどな。
ほっとし、そして、私は改札口へと向かった。
叔母のそらに @hiesho-samui
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます