第二話

「――天下のアルフォド家サマでも...」


 眼の前には、普通の建物よりも広く、異様な威圧感を放つ建物を見る。


「銀行だなんてそんなテンプレチックな所にアジト構えるのね...」


 老人に事後教えてもらい、地図にしたがった結果。

 着いたのが街の数々の銀行の総本山でもある、中央銀行だった。


(灯台下暗し、ってやつか?)


 まぁ、たしかに色々考えると条件のいい場所ではあるかもしれないが...何より気になるのが、何故老人がこの場所アジトを知っていたのか...それが何より気になる。

 しかし、依頼人から様々情報を聞き出すのは無粋。探偵精神に欠けるといったものだから、此処でうだうだ悩んだとしても埒がないだろう。金もらってる以上、契約関係は殺し屋となんの変わりもないのだから。


 と、銀行の前でグダグダしていると、街行く人の視線が俺に集まりつつあるのに気づく。

 今は、真っ昼間。一人銀行を眺めながらほくそ笑みを浮かべずっとボッ立ちしてる男がいたら視線も集まるというものだ。


 ...うだうだしていても仕方がない。

 作戦開始と洒落込もうか。


 ――計画のないね。






 ...そう。この男

 なんの計画も練っていないのである。

 これから対峙するのは一つのマフィアだと言うのに、なんの計画も作戦も、微塵も考えなんかいない。

 こういう所が推理しない探偵なんて言われる所以なのだろう。


 ――しかし、だからといって無謀な戦いというわけではない。

 ジャックは――まさしく手練れだ。

 自分の腕に相当の自身があり、何よりその実力で多くの事件を解決してきた。

 だからこそ。

 なんなら、ジャックにとっては作戦も、計画も邪魔でうざったいものだろう。





 時代遅れの豪華な木製のドアを開け、銀行の中へ足を踏み入れると、そこは本当に銀行か疑う程豪華な内装だった。

 床一面に広げられた真っ赤なカーペットに、馬鹿みたいに高い天井に下げられた、ロビーのサイズにも天井の大きさにも見合う程巨大なシャンデリア。

 銀行である必要を疑うほどに大きな部屋の内装はすべて豪華に、しかしアンティークに飾られており、感嘆の声を漏らすよりも先に君の悪さが勝った。


(銀行に此処までする必要あるのか?全く、アルフォド家ってのはよくわかんねぇな)


 兎に角、奥に進まなければ何も始まらない。

 今いるロビーはただ豪華なだけで、部屋の機能的にも、内装的にも何もなさそうだ。

 ――と、なると、なにかあるとすれば当然、受付の奥。職員たちが事務作業したりしている所の奥になるだろう。


 ロビーの奥にずらりと備えられた木製の受付へ、そのうちの適当な仕切りに入る。

 受付に立っている受付嬢がこちらに気がつくと、受付の為、テンプレートで固められたようなセリフと共に、あからさま作られた満面の笑みを浮かべる。


 ――ふと考えると、今しようとしていることは強盗と変わらないことなのでは...?やだな、明日の朝刊に載るのは。


 ...が、そんなことは知ったこっちゃない。強盗として捉えられたならまたその時どうにでもする。


 なんの要件だとか邪魔だとか色々騒ぐ受付嬢を尻目にジャックは無理矢理受付の奥へ入ろうとする。

 幸い(?)受付嬢との間に仕切りのような物はなく、受付嬢のだけ押しのければ簡単に侵入できそうだ。

 しかし、そんな瞬間、銀行内に、耳を強く叩くような、けたたましい警告音サイレンが鳴り響き、銀行に備わった、ドアを初め、外につながる穴という穴全てにシャッターやロックが掛かり、それと同時に銀行を利用してた人達の悲痛な叫び声が聞こえる。


 そうして、ジャックが受付を強行したせいで、銀行内は一瞬にして混沌に包まれたが、それでも冷静な人間が一人いた。

 無論、言うまでもなくジャックだが。


「まぁ、そうなるよな」


 ジャックは銀行内が自分のせいで非日常的な空間に包まれているのに関わらず、我関せずと、ズカズカと銀行の奥へ奥へと入っていく。

 ロビーの奥の空間はロビーのきらびやかな内装とは打って変わって、仕事場にふさわしい、簡素なデスクや椅子などがズラリと並んだ作りになっていた。


 ロビーの奥...仕事場を見渡し、更に奥に繋がる道を探すと、奥の方に階段があり、後は資料室や簡易倉庫と作られたドアがあるだけだった。


(まぁどうせ地下にあるとかそういうオチだろ)


 そう思い、階段に向かい進もうとした瞬間、突然、横から一人の職員が刺股を持って突進してきた。

 

「やべっ...!!」


 職員のこと完全に忘れてた!!!!


 ジャックはなんとか咄嗟に刺股を避けようとしたが、流石に間に合わず、思いっきり刺股の突進をくらい、壁におしつけられる。

 それを境に他の職員も刺股を持ってジャックを抑えるのに加勢する。

 そうして、ものの10秒もしない内にジャックは身動きがなったく取れないほど抑えられた。


(不味い...滅茶苦茶しくじった!!!!!)


 そうして取り押さえられてる間にも銀行内は耳の中から破られそうなけたたましい警報音はなり続けており、ジャックが駆けつけた警備員にしばかれ回されるのも時間の問題だった。

 だからといっても、ジャックたった一人の力では十人ほどの人間のちからには勝てず、完全に八方塞がりだった。


(嫌だ...)


「こんな不名誉に朝刊に載るのは絶対にヤダー!!!!!!!」


 ジャックらしからぬ悲痛な叫びは、警報音が鳴り響く銀行内にもひときわ際立って響いたのだった...




 To be continued...

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エドワード探偵事務所とカニバリズムの少女 埴輪メロン @akimeron

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