私は人間の骨を一欠けら飲み込んだ




 俺が死んだら、全部喰えよ。

 おまえにとって俺は幸福をもたらす存在なんだろ。

 余す処なくぜんぶ。

 約束だぞ。






 申し訳ありません。

 吸血鬼は空を見上げて、謝罪を口にした。

 申し訳ありません。

 あなたの遺体はすぐに火葬して、骨だけにして、一欠けらを除いて、粉々に砕きました。

 粉々に砕いた骨は、世界中にばら撒き終えたところです。

 これでずっと、あなたと共に居られます。

 驚きました。

 世界中にばら撒けるほどに、あなたの骨密度は高かったのです。

 どうぞ、誇ってくださいね。

 今頃あなたはすげーって大はしゃぎしているのでしょうか。


 世界中にばら撒いたあなたの骨は、巡り廻って、必ず集まる事でしょう。

 私の元に辿り着く事でしょう。

 私が持っているあなたの一欠けらを求めて。


「本当は飲み込まない方がいいのでしょうけど」


 一欠けらの骨で太陽を覆ってから、舌の上に置くと、そのまま丸呑みした。

 喉を通り過ぎて、胃に落ちた瞬間に。

 帰って来た。という感覚がするのはきっと、あなたが飲み込んだ私の牙がまだあなたの中に残っていた事を意味するのでしょうね。


「ああ。私の中から生まれて来てくれてもいいですよ」


 腹をそっと撫でてから、歩き出した。

 あなたにもう一度出会う為に、生き続けましょう。











(2023.11.26)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は吸血鬼の牙を飲み込んだ 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ