31話:退屈しないのは悪くない、か?
チョコパイを買いに現世へ向かうことはせず、
既に太陽は森の向こうへ身を隠し、僅かに残った茜色の空も、間もなくその美しさを夜色に変貌させようかという時間帯。
空を突き抜ける巨大な建築物は、やんわりとした常夜灯の灯りを遥か上空まで放っている。
「あらまぁ、これまた凄い建物ね。アタシが暮らすには悪くないわ」
少なくとも外観は気に入ってくれたらしいが、中に居るだろう巨大な白蛇を見たらどう思うか……。
「随分と遅くなってしまったけど、カピの助は大丈夫かな?」
「悲鳴は聞こえないぞ。もしかして死んだか?」
「いやいや、流石に寝てるだけだと思うよ
狐の美少年によるボケ(?)に苦笑いを浮かべつつ、薬屋:
「あとはよろしく」
「うっ、やっぱ薬飲ませる役目は俺か」
「勿論。旅館の若旦那でしょ?」
「……だよな」
決める他ない覚悟を決めて。
薬の小瓶を受け取るも、1000階旅館の正面玄関は2重の摺りガラスだ。
中の様子は外からだとわからず、
白蛇様の巨大な姿を彷彿とさせるシルエットは見えるものの、起きているのか寝ているのか、カピの助の所在も不明だ。
「
「白蛇? 別にそのくらいじゃ驚かないわよ。子供じゃないんだから」
「そうか。ならいいんだ」
爬虫類は大丈夫系な女子か、彼女の答えに安堵して。
それから「そーっと」、かなり慎重に
「ぎゃッ!? 化物ヘビが居るわよ!!」
「(しぃ~、せっかく寝たんだから起こさないで!!)」
「「「ッ!?」」」
張らない声で叫んだのは、
中庭を望む回廊で、
非常にやつれた顔をしているものの、何とか自我を保ったまま
予想以上の大きさに驚いた
白蛇様を起こさぬ様、足音を立てない様に歩いてカピの助の元へと近づく。
「悪い、遅くなった。材料探しに少し手間取って」
「もう駄目かと思いましたよ~。このまま帰って来なかったら、私、間違いなく若旦那を恨んでいたところでした」
「そ、そんな怖いこと言わないでくれ。今朝の時点じゃあ、俺にはどうしようもなかったんだから」
「わかってますよ。若旦那はちゃんと戻ってきて下さる人物だと信じていました。――それで、肝心の薬は?」
「何とか用意出来た。あとは
「では、早速お願いします」
顔だけで
小瓶の薬を飲ませるには、ある程度「上」を向かせる必要があるのは明白か。
「
「う~ん、白蛇様の頭は重いからなぁ……うん、無理だな」
「そ、そこを何とかしないと薬飲ませられないんだけど……」
「そんなのボクに言われても困る。
「ぐっ……」
ここ一番で見放されたが、
少なくとも、
「その馬鹿デカい白蛇の頭を上に向けさせて、それで薬を飲ませればいいのね?」
「え、そうだけど……
頼もし気な台詞を吐いた日本人形の
先ほど悲鳴を上げた
「おい、どうするつもりだ
(……え?)
顎下から物凄い衝撃を受け、白蛇様の頭が強制的に上を向いた。
「
「あ、はい」
思いがけぬ事態に理解が追いつかない。
言われるがままに
途端、
感電したかの様に白蛇様の身体が大きく振動。
その動きで隙間が生まれたか、カピの助が「わわっ!?」と驚きながらも蜷局から脱出し、ドテッと回廊に落ちる。
そして肝心の白蛇様は数秒身体を痙攣させて、最後はバタンと中庭に
――――――――
――――
――
―
「ほ、本当に大丈夫かコレ? 死んだように動かないけど……」
カピの助の救助と、白蛇様への薬の投与。
無事に目的を達成した
「おーい白蛇様、大丈夫か?」
ツンツンと、
その巨大な眠り顔を観察した薬屋:
「まぁ大丈夫でしょ。
「それはそれで結構な痛みだが……薬の力でどれくらい寝るんだ?」
「ん~、白蛇の旦那が酒をどれだけ飲んだかにもよるけど、だいたい半日から1日ってところかな。寝てる間に酒が抜けるから、起きたら元通りになってる筈だよ」
「そうか。色々あったが、とりあえずコレで一件落着だな」
最後の最後、強引に力で捻じ伏せた
今日一日ずっと生贄となっていたカピの助も、憔悴こそしているものの大きな怪我も無く無事に終えることが出来た。
やっとこれで一息つけると、
「う~ん、流石に今日は疲れたな。アチコチ移動して汗もかいたし、温泉にでも入って来るか」
「あ、僕も入ろうかな。ここの露天風呂、お湯が気持ちいいんだよね~」と
「私もお邪魔してよろしいですか? 白蛇様の接吻で身体がベトベトで……」とカピの助も小さな手を上げる。
「あはは……ごめんなカピの助。それじゃあ一緒に入るか。
「当たり前だろ。一番風呂はボクのモノだ」
そんな彼の隣を、
「残念
「むっ、
「ちょッ、本気で走るのはズルいって!!」
「あ、待って下さいよ二人共~」
先を走る二人に続き、カピの助も短い足でトコトコ駆けてゆく。
あっという間に3人が居なくなり、残った
「
「馬鹿な質問ね、男と一緒に入る訳ないでしょ。私は適当に旅館を探検してるから、
「そうか。それじゃあ悪いけど、ちょっと温泉に入って来るよ。戻ってきたらアレコレ今後の話でもしよう。色々と決めないといけないことも多いからな」
「そうね。この旅館、アタシが暮らすには悪くないけど、やっぱりこのアタシが暮らすからには可愛い部屋も欲しいし、色々と要望は尽きないわ。今の内に覚悟しときなさい」
「うっ、先が思いやられるなぁ……」
「そこは頑張りなさいよ。このアタシが認めた男なんだから」
だったら認められなくてもよかったのに、と今更文句を言っても始まらない。
この
(退屈しないのは悪くない、か? 現世じゃ似たような日々の繰り返しで、何の為に生きてるのか自分でもわからなかったからな。……いや、それで言うと何の為に生きるとか、今もわかってないんだけど)
でも、だけど。
今の生活は“悪くないな”と
コレが良い生活かどうかはわからないけれど、少なくとも現世で暮していた時と比べて、今の生活は悪くない。
この悪くない生活が、いつまで続くのかもわからないけれど――。
そんなことを考えながら
――――――――――――――――
*あとがき
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
次からは【4章:それぞれの日常編】が始まりますので、引き続き宜しくお願い致します。
合わせて「★」評価を貰えると、執筆意欲がグングン上昇して更新速度が上がります。
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