18話:「草の雫」の大事なお仕事
巨木が目印の『薬屋:
店の外で待っていた
そのまま休む間もなく
「ボクは中庭の掃除をするから、ふわふわのやつが出来たらすぐ呼べよ。いいか、すぐだぞ?」
念押しする彼は
相変わらずシトシトと振り続ける小雨に打たれながら、真上からの日差しに照らされる
それを両手で――
すると落ち葉がボフッと煙を上げて“箒に様変わり”。
「え?」と
「
「ん?
「わ、わかってるよ」
あまりの急かしっぷりに妖術の話を聞いている場合ではなくなった。
まぁ話を聞いたところで「へぇ~……」となるだけなのは目に見えているし、そもそも白蛇様だって人間の姿に化けたりするのだ。
ある程度“力”のある『あやかし』は「妖術」とやらが使えるのだろう。
それから早足で
朝と同じく4匹の雫達が出迎えてくれるかと思ったら、今は少々寂しい人数(匹数?)に変わっていた。
「あ、キューぞす。おかえりぞす~(雷)」
「ただいま。他の皆はどうしたの?」
テーブルの果物籠に居たのは雷の雫だけ。
他の3匹(火・水・草)の姿は何処にも見当たらない。
「皆は仕事してるぞす。ぼくはちょうど休憩ぞす(雷)」
「そうなんだ? ちょっと草の雫に用があるんだけど、何処に居るかわかる?」
「草の雫なら、多分裏庭の“畑”に居るぞす(雷)」
「そっか、ありがと」
この1000階旅館に畑があるとは知らなかったが、とにかく場所はわかった。
「おぉ~ッ、何だコレ? 凄い数だな……」
裏庭に出てすぐ。
白菜やレタスと言った葉物から、トマトやピーマンと言ったナス科の野菜に、恐らくはジャガイモだろうイモ類や根菜・はたまた
しかも、本来は収穫期もバラバラの筈なのに、その全てが丸々と実っている。
作物の桃源郷とでもいうべき光景を前に
「あ、キューぞす。何かぼくに用ぞす?(草)」
「うん。ちょっとお願いがあったんだけど……その前に、凄い畑だね。これ、全部草の雫が管理してるの?」
「ぼくと水の雫で作ってるぞす。桃源郷の神々にお供えする代物ぞす」
「へぇ~、そうなんだ?(これが全部お供え物か)」
「食べてみるぞす?(草)」
草の雫が苺を1つ持ち上げた。
小さな身体に似合わずかなりの力持ちらしいが、問題はそこではない。
「お供え物なのに食べていいの?」
「沢山あるから大丈夫ぞす。
「そっか。それじゃあお言葉に甘えて……」
せっかくのご厚意。
無下にするのも悪い、という言い訳の元に苺を受け取り。
口に入れた瞬間に広がるのは、ジュースを飲んだかと錯覚する
高級フルーツ店に来たのかと勘違いしてしまう美味しさだが、実際に
「これ、凄く美味しいよ。こんなに美味しい苺を食べたの初めてかも」
「やったぞす~、褒められたぞす~。もう1つ食べるぞす?(草)」
「いや、1つで十分だよ。このままだと全部食べつくしちゃいそうな美味しさだったから」
「大丈夫ぞす。収穫してもすぐに生えて来るぞす(草)」と草の雫が言うな否や。
先ほど収穫した苺の
僅か数十秒で食べ頃を迎えた光景は、魔法でも見ているかのような衝撃だった。
「コレは……凄いね。植物を成長させるのが草の雫の力なんだ?」
「大体そんな感じぞす。だからキューがもっと食べても大丈夫ぞす(草)」
「ありがとう。でも今は大丈夫だから、また今度お腹が減った時に来るよ。それで、草の雫にお願いがあるんだけど……」
「あ、そうだったぞす。ボクに何の用ぞす?」
「――という訳で、薬屋の
ここまでの流れを説明した後、期待の眼差しを草の雫に向ける
この話が通らなければ、ドライイーストが手に入るのは
それでは
「ドライイースト……ぼく知らないぞす。聞いたこともないぞす(草)」
「……そっか。まぁそうだよね」
これだけ大量の作物を作っていても、桃源郷の神々にパンをお供えすることはないだろう。
いくら草の雫が凄い力を持っているとはいえ、知らないモノは仕方がない。
「ゴメンね、仕事の邪魔しちゃって」
肩を落として踵を返す
そんな彼を止めたのは、勝手に期待されて勝手にガッカリされた張本人だった。
「待つぞすキュー、諦めるのは早いぞす(草)」
「え、でも草の雫はドライイーストを知らないんでしょ?」
「知らないけど、テイメーがボクに作れるって言ってたなら、もしかしたら本当に作れるやつかも知れないぞす。ドライイーストはどんな代物ぞす?(草)」
「う~んとね、小麦粉とかに混ぜて寝かせておくと、膨らんでパン生地になるモノなんだけど……っていう説明でわかる?」
可愛らしい顔で難しい顔を作っていた草の雫が、ハッと顔を上げる。
「それ、もしかして“ふっくら
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