🦊【1000階旅館の不思議な日常】 ~ 人生に絶望した青年が『あやかし』から引き継いだ辺境の旅館で、狐の美少年と一緒に暮らしながら来訪者を「おもてなし」する物語 ~
17話:薬屋:貞明《ていめい》はかく語りき
17話:薬屋:貞明《ていめい》はかく語りき
木造住宅において「木の温もりを感じる家」とはよくある枕詞だが、この『薬屋:
床も壁も天井も全てが「巨木の内部」であり、視覚的にも嗅覚的にも木の存在感に包まれている。
広さはざっと10畳程。
天井から吊るされた複数の傘付きランプが空間を淡い光に包んでおり、奥には「扉」と「2階へと上る階段」も見える。
手前側には用途不明の代物が雑多に置かれた棚も設置されているが、今
空間を仕切る様に設置された木製のカウンター越しに、ラフなパーカー姿で桃色の髪を持つ青年がいた。
そして、「あの~」と声を掛けた
「――待ってたよ、
「俺のことを知ってるのか?」
「うん、白蛇の旦那から聞いてる。1000階旅館に新しい若旦那が来たってね」
この青年、どうやら白蛇様とも知り合いらしい。
つまるところ、それは
無論、彼が『あやかし』の化けた姿でなければ、という前提であり、
「一応聞くけど、アンタは人間だよな? それとも『あやかし』が化けてるのか?」
「違う違う、僕は普通に人間さ。名前は
「『あやかし』専門の薬屋……? 『あやかし』が病気になるのか?」
「余裕でなるよ。『あやかし』だって生きてる訳だし、体調が悪くなる時もそりゃあるさ。でも、本当に恐ろしいのは病気とはちょっと違う状態の時。
「『
彼からの軽々しい呼び名に関してはさて置き。
『
逆に言えばその程度が限界。
具体的にどういう状況を指すのかは知る由もない。
そんな
「“
「えっ、どうしてそのことを……?」
「それも白蛇の旦那から聞いたんだ。もし『
「あぁ、それに関しては……」
かくかくしかじか。
メロンパン作りに失敗してレシピ本を探している旨を伝えると、
「料理が得意な訳でもないのに、それは随分な安請け合いをしたね。まぁ
「承諾した時は、スマホで調べればいけると思ったんだよ。でも完全に圏外だし」
「あー、
「
「勿論。去年まで大学通ってたし、今も買い出しやら何やらでちょくちょく現世に出かけるからね」
ここで頬杖を止め、「ちょっと待ってて」と席を立った
猫背気味な姿勢の為か、
しばらくしてゴソゴソ音が止んだかと思えば、階段を降りて来る
「レシピ本、何冊かあったよ。大学生で一人暮らしを始めた時に、料理も頑張ってみようかと思って買ったやつ。まぁすぐに面倒くさくなって辞めちゃったけどね」
「ちょっと見せて貰っていいか?」
「見せるというか、全部あげるから好きにしていいよ。この“菓子パン100選”ってやつにメロンパンの作り方も載ってるから」
「それはありがたい。でもいいのか? こんな初対面でいきなり……」
「使わない僕が持っててもしょうがないでしょ。代わりに、僕が困ることがあったら
「あぁ、それは勿論。俺に出来ることなら」
かくして料理のレシピ本をくれた薬屋:
桃色の髪もあってか、
フランクに話しかけてくれるおかげで、思ったほど苦手な印象は受けなかった――が、これで万事解決となった訳でもない。
「
「う~ん、悪いけどそれは持って無いかな。また5日後に現世に行く予定だから、その時でよければ買って来るけど」
「5日後……」
メロンパンを食べられるのは早くても5日後だと、それを告げることが
(いやぁ、
一度失敗したメロンパン作りを、「このままでは終わらないだろう?」と
5日も待たせてしまうのは非常に心苦しく、こうなったら現世で買い出しさせて貰えないか、白蛇様に交渉するのも一手ではないかと、
「ドライイースト……“草の雫っち”なら、もしかして作れるんじゃない?」
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