🦊【1000階旅館の不思議な日常】 ~ 人生に絶望した青年が『あやかし』から引き継いだ辺境の旅館で、狐の美少年と一緒に暮らしながら来訪者を「おもてなし」する物語 ~
16話:『薬屋:蓬莱亭《ほうらいてい》』
16話:『薬屋:蓬莱亭《ほうらいてい》』
「コレ、割と美味しいぞす(火)」
「ぼくも割と好きぞす(水)」
「あとで草の雫にもあげるぞす~(雷)」
何とか食べれるモノに仕上がった(?)クッキーを雫達は気に入ってくれたみたいだが、
そもそも約束したのはメロンパンであり、期待させた結果がコレでは
「ゴメン、
言い訳しつつ、作務衣のポケットから取り出したスマホ。
そのバッテリーは残り25%。
ここには雷の雫がいるので、充電ケーブルさえあれば充電も可能かもしれないが、ネット環境が無ければレシピを見ることも出来ず、如何に現代人がネットに頼っていたのかを思い知らされる。
が、そんなことは
「おい、これで終わりじゃないだろうな? ボクは美味しいふわふわのやつを食べたいんだぞ」
「わ、わかってるよ。俺も美味しいメロンパンを作りたい気持ちはあるんだけど、パンを膨らませるイーストが無いし、レシピも無いから正しい手順がわからなくて……」
「レシピ? イーストはわかんないけど、レシピは聞いたことあるぞ。料理の作り方を書いたやつだ」
「そうそう。そのレシピがあれば、多分俺にもメロンパンが作れる筈なんだけど……え、もしかして1000階旅館にあるの?」
期待の眼差しを
「ここには無い。でも、確か“薬屋”が持ってた気がする」
「薬屋? そんな人も居るんだ? ……あ、人じゃなくて『あやかし』か」
すぐに訂正するも、その訂正を彼は否定する。
「いや、薬屋は人間だ。森の外れで暮らしてる」
「人間?
「何を驚いてる。
「それはまぁ、そうなんだけど……」
この
疑問は色々と膨らむものの、それは直接本人に会って聞けばいい話であり、そもそもレシピ本を入手しないことには、膨らみ続ける
――という訳で。
森の外れに暮らしているという“薬屋”へ会う為、
■
~ 森の外れ ~
モフモフな尻尾を追いかけ、木漏れ日を受けてキラキラと輝く紫陽花通りを進むこと30分。
似たような光景が続く中、何度か道を曲がった為に
上空からは疎らな木漏れ日が差し込み、神聖さすら感じる美しい光に包まれた空間で――彼は“見つけた”。
「はぁ~、物凄く大きな木だな。今まで見た中で一番大きいかも……」
見つけたのは、“見つけた”といった表現が不釣り合いに思える程の立派な巨木。
大人が10人集まって手を繋いでも、絶対に一周出来ないだろう物凄く太い幹を持っており、途中からは「鬼の角」の如く左右で二股に別れている。
別れた幹だけでも並の大木以上の太さで、その先の枝葉から茂る青々とした葉っぱが、先に述べた神聖さすら感じる美しい木漏れ日を演出していた。
この美しさ、大きさだけでも注目に値する。
が、やはり一番無視出来ないのは幹の根元に見える「扉」。
手作り感のある
横には丸い窓の存在も確認出来、おとぎ話の様な話ではあるが、この巨木が「家」であることは想像に難くない。
その証拠に、扉の上には『薬屋:
「着いたぞ。ここからは
「え、
「ボク、あいつ苦手だ。ここで待ってる」
どういう訳か「自分は絶対に行かない」という強い意思が見て取れる為、
(まぁ相手は人間だし、いきなり取って喰われるような事はないか)
短い階段を上り、扉の前に立つも、周囲にインターホンの類は確認出来ない。
必然的に「コンコンッ」とノックし、合わせて「すみませーん」と声を張り、しばらく返事を待つも――反応は無い。
「留守か? いや、扉に鍵は掛かってないな(っていうか、そもそも扉に鍵が無いのか……)」
試しに扉を引いてみると、動いた。
随分と不用心ではあるが、
少し迷ったがそのままドアを開き、巨木の中に入ると――“居た”。
まるで雑貨屋の様な内装云々は一旦保留し、
年齢は恐らく同じくらいか、もしくは彼の方が少し若く、髪は派手な桃色で、更には色の付いた丸眼鏡を掛けている。
本でも読んでいるのか手元に視線を落としたまま、
(アレが薬屋、だよな……?)
正直、見た目からは「チャラそう」な印象を受ける。
意を決し、
すると気付いた桃髪の若者が顔を上げ、開口一番に告げた。
「――やぁ、待ってたよ。
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