15話:初めてのメロンパン作り(2)
~ メロンパン作り開始から1時間後 ~
「とりあえず生地は出来た、のかな……」
不安げな表情の
彼の前には2つのボウルがあり、それぞれパン生地(の筈)とクッキー生地(の筈)が丸まった状態でボウルの中央にポツンと入っている。
ちなみに「入っている」で言えば。
1000階旅館が無料Wi-Fiを用意している訳もなく、ネットに繋がらない = レシピも見れない為、全て
(仮に分量が合ってたとしても、イースト入れてないからパン生地の方は駄目だと思うけど……)
それでもクッキー生地の方は上手くいった、気がしなくもない。
メロンパンはさておき、とりあえずクッキーが美味しく出来れば
「キュー、この生地をどうするぞす?(火)」
「えっとね、確か冷蔵庫で少し寝かせるんだよ」
「お布団はいるぞす?(雷)」
「要らないよ。冷蔵庫に置いておくだけでいいから」
ボケか本気かわからないが、とりあえず真面目に答えを返し。
それから改めて
「そう言えばさ、
「それは違うぞす。昔はここにも大勢の人間が居たから、人間用の設備がここにはあるぞす(火)」
「でも今は、この世界に来れる人間が少なくなったぞす(水)」
「時代の流れぞす(雷)」ということらしい。
(そう言えば、昔は人間と『あやかし』の距離が近かったとか、『あやかし』が見える人間も多かったとか、そういう話を聞いたことがあるな……)
何故そういう人間が減ったのか――その具体的な理由までは
温泉やトイレ、その他の設備も同じ理由だろう。
「だから電子レンジとかオーブンとか、冷蔵庫が普通にあるんだね。……あれ、でもこの冷蔵庫とか結構新しいやつじゃない?」
「それは前任者が現世から買って来たぞす(火)」
「白蛇様もたまに現世から仕入れてくるぞす(水)」
「最近は、家電の進化が目まぐるしいと言っていたぞす(雷)」
「ふ~ん? 普通に現世から買って来るのか。まぁ便利なモノだし、生活の必需品だから使わない手はないか」
ただ、家電の現物を手に入れたところで、家電と言うからには絶対に「電気」が必要な訳だが……。
「ついでに聞くけどさ、1000階旅館で使う電気って何処から送られてくるの? まさか太陽光発電とかじゃないよね?」
「あ、電気は全部ぼくぞす(雷)」
「え?」
「1000階旅館の電気は、全部ぼくが作ってるぞす(雷)」
「……え?」
思わぬ答えに
パチパチと何度かまばたきをすると、雷の雫が胸を張る。
「暇な時、ボクが蓄電器に電気を溜めてるぞす。旅館の電気は全部それで賄ってるぞす(雷)」
「そ、そうなんだ? 凄いね」
「えっへんぞす。キューはぼくに感謝するぞす(雷)」
最初の
それから
冷蔵庫から生地を取り出し、適当な大きさに切り分け、祈るような気持ちでオーブンに入れたのだった。
■
~ 数十分後 ~
「出来たね……“クッキー”が」
少し焦げ気味ではあるものの、パッと見はそれっぽいクッキーが出来上がった。
漂って来る香ばしい香りも悪い感じはしないので、うろ覚えの知識で作った割には上出来と言えるだろう。
ただし、当然と言えば当然だが、適当に作ったところでパンは出来ない。
パンと呼べる程に膨らむことが無く、見た目的にも大きくて分厚いクッキーみたいな出来栄えで、コレには焼き上がりの前から目を覚まして待っていた
「――おい
「う~ん。材料的にはそんなに間違ってないと思うから、そこまでは味は悪くないと思うんだけど……」
不安気に答えた
硬めの端っこを食べたのもあってか、「ボリボリ」とパンらしからぬ音が聞こえてくる。
「ど、どう?」
「む~……不味くは無いけど、美味くもない。あと、全然ふわふわしてない。こっちの小さいのは――まぁまぁだな」
ギリギリで赤点は免れた。
クッキーに関しては及第点を貰えた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます