14話:初めてのメロンパン作り(1)

 4匹の小さな精霊「しずく」。

 彼等の協力を得てメロンパン作りを始めることになった朝霧あさぎり杞憂きゆうに、まず火の雫が問う。


「それで、キューは何を作るぞす? スイカがどうとか言ってたような……(火)」


「スイカじゃなくてメロンね。琥珀こはく君にメロンパン作る約束したんだけど、材料とかあるかな」


「メロンパン……とはなんぞす? ぼく、フライパンなら知ってるぞす(水)」


「う~ん、それとは全くの別物だね。パンの種類なんだけど」


「あ、パンは知ってるぞす。小麦粉で作る美味しいご飯ぞす(草)」


「うん、まぁそんな感じかな?」


 パンをご飯とは肯定も否定もしにくい例えだが、大枠のイメージとしては外れていないだろう。

 ただ、逆に言えばその程度の知識であり、小さな雫達に不安を覚えざるを得ない。


「今回作るメロンパンっていうのは、メロンみたいな形のパンなんだけど……果物のメロンは知ってる?」


「勿論知ってるぞす。我々を馬鹿にするなぞす。プンプンぞす(火)」


 火の雫の顔、とでもいうべきか。

 雫型の炎がメラメラと燃え、一時的に小さな火柱が上がった。

 コレには杞憂きゆうも驚き、草の雫は果物籠に隠れる始末で、すぐに彼は謝罪する。


「ゴメン。馬鹿にはしてないんだけど、何を知ってて何を知らないのかがわからなくて……」


「なるほど、それなら仕方ないぞす。キューを許すぞす(火)」


「全く、火の雫はすぐに怒り過ぎぞす(水)」


 水の雫が頭から水滴を飛ばし、火の雫の火柱を消化。

 燃え上がるのが一瞬なら、それが落ち着くのも一瞬か。

 すぐ元に戻った火の雫を見て、ホッとした様子で果物籠から出て来た草の雫が改めて問う。


「つまり、キューが作りたいメロンパンは、メロンの形をしたメロン味のパンぞす?(草)」


「あーいや、味はメロン味じゃないんだよ。普通に甘い砂糖の味……なのかな」


「え、じゃあメロンは形だけぞす? 味はメロンじゃないのにメロンパンぞす?(草)」


「うん。一応はメロン味のメロンパンもあるけど、普通はメロン味じゃない方が多いかな」


「むむむ、よくわからないぞす……。ぼく、困ったので寝るぞす(草)」


 言うな否や。

 草の雫が頭から葉っぱを生やし、それを小さな手でプチっともぎ取る。

 その後は果物籠の中で横になり、先の葉っぱを身体にかけて「スー、スー」と眠り出した。


(えぇ、いきなり寝るとか……マイペースな子だなぁ。今の時代、これくらい周りを気にしない方がいいのか?)


 アレコレと気を使う現代社会で、周りの迷惑を顧みないただの自己中心的な人間はともかく。

 気を使い過ぎて精神がすり減ってしまいがちな世の中では、このくらいマイペースな人間な方が心にもゆとりが生まれるのだろう――と、草の雫の言動から自分を顧みている場合ではない。


 ここに来たのは琥珀こはくの願いを叶える為、メロンパンを作る為だ。

 いつまで経っても料理を始めない杞憂きゆうに、琥珀こはくの視線も徐々に冷めてゆく。


「おい、いつになったらふわわふのやつは出来るんだ? ボクは仕事があるし、お前ほど暇じゃなんだぞ」


「あ、ゴメン琥珀こはく君。これから作るよ。出来たら呼ぶから」


「全く、杞憂きゆうは駄目駄目だな」


 やれやれと首を振り。

 それから廊下に積まれていた座布団を厨房キッチンの入口に持って来た琥珀。

 何をするのかと思ったら、そこに座布団を数枚並べ、更には重ねてその上に寝そべった。


「ボクはここで寝てるから、出来たら起こせ」


「え、あ……うん(仕事は?)」


 杞憂きゆうの見張りか、それとも寝るのが仕事なのか。

 6人(2人と4匹)中2人(一人と1匹)が寝ている状況だが、何はともあれ。

 出来立てのメロンパンをすぐに食べたいんだな、という琥珀こはくの気持ちは理解出来た為、であればそろそろメロンパン作りを始めない訳はいかない。


「キュー、材料は何で作るぞす?(雷)」


「えっとね、パンとクッキー生地を作るから、小麦粉……強力粉と薄力粉だっけ? 確かそれを使うんだけど……どっちがどっちだったかな。あとはバターと卵と、砂糖は既にあるし……あ、多分イースト(?)ってのも必要だったと思うんだけど、ここにある?」


「イーストはよくわからないぞす。でもそれ以外はあるから、とにかく作ってみるぞす!!(雷)」


「え、多分イーストが無いとパンにならないと思うんだけど……」


「そこは気合でなんとかなるぞす!!(雷)」

「そうぞす。ボク達はいつも気合で何とかしてきたぞす!!(火)」

「失敗したら、その時はその時ぞす。ぼくが水に流すぞす(水)」


 気合十分な火の雫と雷の雫。

 それに加えて「上手いこと言った」みたな表情でえっへんと胸を張る水の雫。

 何とも頼りにならない3匹だが、元を辿れば料理を甘く見て安請け合いをした杞憂きゆうの責任。


 言い訳のしようもなく、不安のままに杞憂きゆうは材料の用意を始めた。

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