第2話 アイドルの私は消えた
「お疲れ。凛奈」
「お疲れ様。ありがとうね」
夏が本格的に始まる7月の下旬。私、篠崎凛奈はアイドル人生に終止符を打った。
最後の輝く瞬間は卒業ライブという形で終われて満足だ。本当は卒業ライブなんてやらないつもりだったんだけど……
「凛奈は最後まで凄かったね」
「凛奈先輩!Tシャツにサインしてください!」
「うちなんてソロ曲で泣いちゃったもん」
「もう凛奈の歌が聴けなくなっちゃうのか…」
こうやってアイドルの私を好きで居てくれたメンバーが後押ししてくれたお陰で最後の舞台へ立つことが出来た。
「みんな。今日まで本当にありがとう。スターライン結成時から活動してきたけどこんなに心打たれた日は初めてかもしれない。勿論、今までも楽しかったわよ?同期の支えや後輩達の成長が私を今日までアイドルにしてくれた。感謝してもしきれないわ」
「凛奈ざん゛」
「あーもう泣かないって決めないのに…」
「最後くらい良いじゃない。泣き顔も可愛いわよ?」
本当、短いようで長かった。
14歳の時にアイドル事務所のオーディションに合格して25歳で最後を迎える。数えれば11年もお世話になってたらしい。
だから私には学生の青春や恋愛などは無かった。私の青春はアイドルだ。それが良かったのか悪かったのか今ではハッキリと言える。
「私はアイドルと芸能界を離れるけどみんなのことはずっと応援しているわ。願望を言えば国内だけじゃなくて海外にも進出して欲しいわね」
「スタライのエースが居ないと確率は低いような気もするけど……頑張るよ」
「頼りにしているわキャプテン」
私がニコッと笑えばキャプテンである彼女は涙を浮かべながら笑顔を見せてくれた。
最後だと言うのに、私は同期のキャプテンにさえも作った言葉を投げかける。自分の中でこの場面ではこの言葉をというマニュアルが完全に出来上がってしまっていた。
こんな私のために泣いてくれるメンバーに申し訳ない。
凄いの賞賛も、尊敬しているの憧れも全てマニュアルの言葉で受け止めてきた。なのに一度も見破られなかったな。
そしてそれはメンバーだけじゃない。私を推してくれた人達も心込もってない言葉を信じてくれた。
だからこそ……卒業に至ったのかもしれない。
「みんな」
ごめんなさい。貴方達に本心で言葉を交わせたのは遠い過去だった。
「私をここまで連れて来てくれてありがとう」
私を信じてくれたのに私はみんなを信じきれなかった。
「スターラインは私の宝物です」
ほら、この文章も作り物なの。
「大好きよ」
汚い言葉は今日でお終いにするから。だから今この瞬間だけは、篠崎凛奈で在らせて。
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