〈秋津〉という男

 とりあえずホームルームと自己紹介が終わり、ほっとしている。果たして新しいクラスで馴染めていけるのか。そんなことを考えながらまたぼーっとしていると、とても視線を感じる。視線の方を見てみると、一人の男子がいた。茶髪の癖っ毛だが、割と人と馴染めそうな顔をしている。気になって話しかけようと思うが、どうにもその気になれない。と、その男子が近寄ってきた。初日から一体なんなんだ。変な人だったらひとたまりもない。

 「おはよう!」

 それは随分と陽気な声の挨拶だった。初対面の人に対してこんなにも元気に挨拶ができるものなのか。見習いたい。

 「僕は秋津東也〈あきつとうや〉っていいます。1年間、よろしくお願いします。」

しかも、丁寧に名前まで教えてくれた。そういえば、さっき行った自己紹介でも、元気な声だった。一番最初で緊張しているのだろうと思いきや、はっきりとした声で、しかも丁重に紹介をしていた。

 「ぼ、僕は和島っていいます。どうぞよろしく…。」

唐突な挨拶だったのでついいつものように戸惑ってしまった。自分の名前を名乗るとすぐに覚えてくれて、名前を呼んでくれた。意外と、悪い気はしなかった。すると、手を出してきた。今までに見たことのないほどの笑顔で僕の顔を見てくる。まさか、初対面なのに握手を求めているのか。秋津東也、恐るべし男だ。少し困った顔をしてみても一向に引く気はなさそうだったので、とりあえず握手をしてあげた。そしたら、「これからよろしくね、和島くん。」と言ってくれた。初対面でなんの迷いもなく声をかけ、尚且つスキンシップまで求めてくる。陽キャというのはこういう人のことを指すのだろう。僕も軽く、よろしく、と返すと、颯爽と踵を返して次の人のもとへ向かった。クラス全員に挨拶してまわるとでもいうのだろうか。流石、陽キャは違うなと感じた。とりあえず、変な人のようだったがそうじゃなくてよかった。話せる人ができただけまだいいだろう。問題は、この後の学校生活である。さあ、ここから友達は増えるのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

なんとはなしに、生きている @cola_221

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る