最終話

 プロジェクターから白い壁に映されているのは、高い城(キャッスル)教の資料だった。

その横にいる男が、ずらりと並んだ机に座っている聴衆に向かって言う。

「この宗教は、主に産業革命後の世界の否定する……まぁ、そういうものを教義にしているようです」

 水を一口飲んで、続ける。

「高い城は、四方4キロメートルで、ぐるりと一周、約12メートルの壁で囲まれています。開いているのは4ヶ所。東西南北に1ヶ所ずつです」

 映し出された地図の4ヶ所に向け順番にレーザーポインターを当てて行く。

「それだけなら、ただの宗教で、我々も調査する必要もないのですが……。問題はその後です」

 男は次のスライドの説明をはじめた。

「この男、名前はオスカー・キャッスル。この高い城(キャッスル)教の教祖です。また、この男が開祖で間違いないようです。コイツは資産家で、自分に都合の宗教を作ったってのが、スライドの内容です」

 男は雑に説明を行う。詳しく説明するのが不愉快になるほど、最悪に近い内容のためだった。

「そして、この宗教の教義には『聖女さま』というモノが扱われています。が、それが人権問題に触れます。『聖女さま』は壁の外から誘拐された少女であることが判明しています。いわゆる拉致です。それから、この『聖女さま』は教祖と結婚することが義務づけられます」

 男は胸のあたりに不快感を覚えはじめた。

「さらに、その『聖女さま』は、結婚したあと、高い城(キャッスル)の地下に閉じ込められ、一生そのままです。地下でなにをされるかは、想像に任せます」

 男は自分で説明していることを、呪いたかった。

「教義によると、『聖女さま』の力を閉じ込めておくことが必要だそうです。また、このことは、城のまわりに住む街の人々にも知られています。その街の人々は、『聖女さま』の婚約、地下に幽閉されることを言ってはいけないことになっています」

(ひどいな)

「さらに、婚約されるまでの『聖女さま』には優しくすることが、教義には書かれていま」

 スライドをめくって続ける。

「我々の仲間が、次期『聖女さま』のアリス・キャッスルの救出を試みましたが、失敗に終わりました……」

 男の話は続いた。



 この会議のことを当然アリスは知らない。アリスは知らないが故に、自分を助けてくれるはずの人物を間違えて、自分の人生を潰してしまった。

 アリスに神様はいなかった。


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高い壁のアリス 愛内那由多 @gafeg

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