第2話 やってきました。異世界へ。

「マジか…やってきましたよ異世界。」

「…これからどうしよっかな…利島アレ!」

二人が目を開けるとそこには、夢にまで見たファンタジー世界。

草原には見たことのない色の植物。空を見ると遠くに見える

3つの月のような惑星。そして、その上を突っ切っていったドラゴン。

「アレって…」

そんな心輝かせる景色の中、近くに謎の古びたガチャガチャがあった。

茂みの中からひょっこりと顔を出して、まるで回してくれと言わんばかりだ。

異様な雰囲気を醸し出しているあたり、おそらくヤバいものであると検討はつく。

「なんか…某赤猫のアニメじゃないか?この下り。」

「あーソフトクリームも出てくるかもね。」

だが。完全に心は少年少女の二人はお構いなしに近づく。

そのまま何事もなくガチャガチャの前へ来た時。異変が起きた。

二人の頭の中に突如入り込んだ記憶。

【これさえありゃあこの世界の女は俺のもんだ!】

【この力凄く良いわぁー。子供を虐めるのにこんなに役立つもの♡】

【ハハハ!こんなヌルゲー楽勝だな!】

それは、この世界に来た自分たちと同じ第一層人の記憶。

「つまりこのガチャを回せば回すほど強くなるってことか…」

「…にしても私達のやつ何か変じゃない?記憶の中にあった

ヤツは全部銀ばっかだったのに…」

疑問を抱えたまま二人はガチャガチャの前でしゃがみ込み、首を傾げる。

すると、いきなりガチャガチャの取り出し口から女神の映像が流れ込んできた。

『おめでとうございます!このガチャは古代スキル、禁忌遺物のみの出る

高確率出現仕様になっています!第二の人生はきっと良いことが有るでしょう!』

それだけを残して映像はぷつりと切れた。現の二人はというと、口を開けたまま

一向に閉じようとしない。

「…え。修正なのか?バグなのか?」

「女神さーん?聞こえてますかー?」

辺りはしんと静まり返っており、風ひとつ吹かない。

二人の間をひゅるりと抜けていく風も無ければ、いきなり雨が降るというような

お決まりの展開さえ用意されていなかった。

「これって何か…あれじゃない?あの…パネルみたいな…。」

「あ!あれね。ステータスオープン…みたいな!」

しんとした空間をどうにかするべく利島は話題を無理やり変える。

それに応じるように滝谷が少し裏返った声で反応する。

すると、二人の目の前にいきなり謎の画面がヴォンと現れた。

そこにはそれぞれの名前、年齢、体の状態が表されている五角形、

そして長々と続く謎の光る文字。

「何これ…。ってかレベルの欄書き間違いでは…?」

「いや…それに加えて何かスキル欄のメーターが完凸なのは何⁉」

二人の前に写った画面にはお決まりの初期設定画面などでは無く、

レベルが999と表示されていたり、スキルのレベルがPERFECTという表示になっているまさにバグ、チートと呼ぶにふさわしいだろう。

「まあまず一旦回すか。」

「まぁ…そっすね。」

考えることを諦めた二人は、目の前にあるガチャガチャをぶん回した。

カコンと出てくるカプセルは手のひらサイズで、中身は見えない。

二人でひたすら引いた。幾つものカプセルが虹色に光り輝いており、

最早他の色が有るかさえ怪しい。

「こうなったら…ノーマル出るまで引き続けたるわぁぁぁぁぁぁ」

「燃えてきたあああああ!」

二人の謎のやる気導火線に火がつく。二人はただひたすら

ガチャを回し続けた。時折ガチャの機体ごと揺らしたり、

ハンドルを逆に回してみたりして様々な方法を試した。

そして一時間が過ぎた頃、二人の周りには数え切れないくらいの虹色に輝く

カプセルが転がっていた。中身を見るという作業も思考も完全に放棄してやった

結果がとてつもなく酷なことになっていた。

「…開けるか。」

「…開けよう。」

二人はカプセルの山の前に完全に戦意を焼失し、大人しく近くにあったカプセルを

手にとり、ゆっくりと蓋を外した。

『超激レア!アイテムボックスレベル100を獲得しました。』

『超激レア!空間転移レベル120を獲得しました。』

中から出てきた謎の光の玉がゆっくりと二人の中に吸い込まれていき、

それぞれの意識の中に何が出たのかをゲームのような表示で浮かび上がった。

「何だこれ?アイテムボックスってあれか?あの異空間に

滅茶苦茶モノ収納できる的な?」

「私空間転移って出てるんだけど…しかも120って…上限設定してんのかな?」

そのまますぐに他のガチャのカプセルを開けていく。

『超激レア!超斬撃レベル100と超回復レベル100を獲得しました。』

「お。何か2つ出るのも有るっぽいぞ。」

「今気づいたけど全部レベル100始まりなのは何…?」

ツッコみつつも滝谷もカプセルの蓋を捻る。

『超激レア!粉砕銃レベル500を獲得しました。』

「…ねえ利島。」

「何だそんな呼び捨てで滝谷。」

「前からでしょ…それより何か武器出てきたんですけど。」

滝谷が手に持っていた金属の物体を利島に放る。

飛んできた物体をキャッチすると思ったよりも重く、

手元で陽光を浴びて反射する金属の筒が美しく輝いた。

「これ銃では?なんかさっきの回想だと武器は出てこなかったけど…」

放られた武器を滝谷に預かって欲しいと言われ、そのままアイテムボックスに

しまう。何にせよ、数百回分は回してしまったので一旦カプセルを全部

同じくアイテムボックスに詰め込み、茂みから出た。

「とりま、異世界来たんでまず飯にしましょうか。」

「そうだね。異世界来てガチャ回してるだけだもんね。私等。」

「ということで、さっきボックスの中で見つけたこれを使います!」

利島がアイテムボックスの中身を写し出しているパネルを表示し、

あるアイテムを選択した。押した直後、二人の前に魔法陣のようなモノが

現れ、ゆっくりとその物体が出てきた。

「これは…免許って異世界でいるかな?」

「要らないんじゃないかな…まぁこんくらいの車なら問題無しかな。」

利島がアイテムボックスを探っている中で見つけたのは前世自分が

高校生のころゲームで作っていた超快適設計の車だった。

車体の前には大きな鉄の板が取り付けられており、

中には冷蔵庫やモニター、さらにはマシンガンがついているような

異世界でしか乗り回せないような改造車である。

「これ自分が高2のときゲームでカスタムしたやつだ。」

「へぇー。何でこんなデカいの?」

「あの頃は…ボッチ…だったので。」

「何かごめんね。」

冗談を交えつつも、二人はひとまずここを離れるべく車に乗り込んだ。

乗り込んだ瞬間、シートベルトが自動でかかり、エンジンもいつの間にか

起動していた。不思議そうに車のあちこちを見ていると、中央のモニターに

電源が付き、女神様が写し出していた。

「女神様?」

[すみませんね。あの機械の説明は後でするので良いんですが一応

伝えておこうと思いましてね。]

「この車のことですか?」

[それもありますが…本題のあなた達二人に解決してもらう問題の

ことです。まず最初にここから少し離れた海の町、エビランデに

行ってもらい問題の第一層人の討伐に向かってもらいます。]

軽い口取りながらも目に込められた謎の感情が二人には見えた。

「討伐って…殺すんですか?」

[いえ、私達神界によって正しき処置を受けさせます。]

「ちなみにどういった事をこの世界でしたんですか?」

[それを説明するにあたってこの映像を見てもらいたいんです。]

中央のモニター以外の2つの左右のモニターにまた違う映像が映される。

そこには、首枷を付けられて倒れる男性と女性が行列を組んでおり、

その中心で手首に枷をはめられて動けない翼が生えた天使のような子供が

三人。震える体と痣だらけの顔面、足は折れている者もおり、

そんな子どもたちの前に謎の黒服を着た女性が近づいてくる。

身長は滝谷より大きく、髪の毛は濃い緑のショートカット。

手には怪しく輝く指輪や腕輪をじゃらじゃら付けており、目の片方を

負傷している様で瞼のもとには傷があり、眼帯をつけている。

女性が近づくと三人は体を抱きしめ合い、震えを抑えようと顔を

埋める。だが、その中の女の子が無理やり引き剥がされた。

「何をしてるんだ?」

「っていうかこの人…どっかで見たんだよね。」

[このニンゲンの名は幹中庄子みきかしょうこ。海の国エビランデを

地獄に変えた極悪人です。]

女神の言葉とともに幹中とよばれる女は引き離した女の子に、

ナイフを向けた。女の子の表情が青ざめていったところで映像が途切れた。

「…胸糞悪いな。」

「確かにこの世界で暴れすぎてる感はあるね。」

二人に与えられた試練はまだはっきりとした危険度も内容も

分からない。だが1つだけ分かったのは、ニンゲンは純粋な悪を持って

行動することは無い。それだけだった。




続く。



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社畜をやめた。異世界で。 ゆきぃ @sarazawa

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