第19話 終わりの始まり

 覇国天武の抵抗は激しかった。

 連合同盟の濁流のような攻撃を耐えて、その上で押し返してきた。その上で、釘打機パイルバンカーのような強烈な一点突破でこちらの守りを吹き飛ばし、要塞群にめり込んできた。今日中に決着がつくと思われていた戦いは、覇国天武の頑強な守りと一点集中の攻めによって、押し押されを繰り返してした。そうして、夜は深くなっていった。


 深夜は、攻撃も穏やかになる。無防備とまではいかなくても、不意の行動には対応しにくくなってしまう。だからこそ、寝る前には前線に防衛部隊を配置するのがセオリーだった。実際にボクもそうして、寝ようとしていた。


「盟主、いますか?」


 ラクシュンからだった。


「はいは~い。なんかあった?」

「いえ、ちょっと気になることがありまして」

「なになに? 聞きたい」

「寝る前に前線に防衛部隊をいれておくじゃないですか。あれって無駄だと思いませんか。夜中に部隊飛ばされて、朝方、兵力回復からだと、動きが鈍いじゃないですか」

「そうかな。そうかも」

「なので実験的にですが、守備部隊をはずして、その分で朝に攻撃をしていきませんか?」


 ボクは戦場をみた。

 守備部隊は20枚を越えている。

 ボクたちが抜けても大きな影響はなさそうだ。


「面白そうだね。そうしようか」


 ボクは同盟にチャットに書き込む。


テルル:明日朝早くから動ける人は守備部隊もどして

テルル:その分、明日の朝で攻撃をします

ふく:了解! 守備部隊下げます。

アル:面白そうだね、了解です

速水:(*`・ω・)ゞ


「みなさん、リアクションが良いですね」

「小規模同盟の利点だよね」

「まぁ、そうですね。それでは夜遅くにすみませんでした。また、早朝お会いしましょう」

「はいは~い。お疲れ~」


 そう言って、チャットを終了した。


§

 

 朝起きて、スマホを手に取る。

 覇国英雄にログインして、戦況を確認する。


「ん?」


 連合軍の要塞群が半壊している。ちゃんと防衛部隊はあったはずなのに。

 なんでこんなに押し込まれているのだろう?

 そんな疑問の解決を、事態は待ってくれなかった。

 個人チャット。桐生さんからだ。


桐生:テルル、起きたか?

テルル:はいっ。どうしましたか?

桐生:悪い、オレの主城に敵が向かってきている

桐生:至急来てくれ

テルル:わかりました


 なにも分からないまま、そう送った。

 なんで、桐生さんの主城に敵が?

 いったい、どこから、どうやって?

 答えを探して、やっと変化に気がついた。

 蓮華白夜の盟主が、……桐生さんに変わっている。

 なんだ?

 混乱して。


「やば……」


 必死に頭を回転させた。

 からすさんが、陥落している。

 やばい。

 やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。

 何が起こった!?

 そこに個人チャットが入った。

 ラクシュンからだ。


「盟主、いま話せますか?」

「大丈夫、なにがあった!?」

「からすさんが陥落しました」

「なんで!?」

「私たちが最初にやろうとしたことを、忍での一気の奇襲を、──覇国天武がやりました」

「そんな、シンさんがいるはずでしょ!」

「陥落させられています。関所を抜いて、近くにあったシンさんの主城を陥落させたみたいです。今シンさんの領地は全て、覇国天武の足場に使われています」


 そんな。

 そんな──。


「盟主は、獅子心の裏切り、覚えていますか」

「覚えているよ、最悪だった」

「そういうことです」

「……わかった」


 ボクは同盟チャットに書き込みをした。


テルル:ごめん緊急

テルル:これ見てたら桐生さんの防衛に向かって

テルル:戦線は、諦める

テルル:詳しいことは、わかり次第伝える

テルル:とにかく今は、桐生さんの防衛に向かう


 くそっ。

 そう口にして、それから、桐生さんの元へ向かった。


§


 桐生さんはなんとか防衛することができた。

 でも、そこまでだった。

 そこからはもう、転がり落ちていった。

 トウカン地方からは追い出され、関所も奪われた。

 ホクトウ地方の勢力図は、敵の領地を示す赤色に塗り替えられていった。

 敗戦に敗戦を重ねた。

 保持していた城もすべて、失って。

 ただただ。

 敗戦を重ねて続けていった。

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ポケット鳥獣戯画 文月やっすー @non-but-air

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