JKメイドは家族に売られた【Go giri march】
ある
第1話 どうしてこうなった
「
夏のお屋敷、私はメイド服に身を包みながら不釣り合いのバットを手の中で弄ぶ。もちろん野球をしてるわけじゃ無い。
プレッシャーに胸がバクバク、手汗も酷い。
何故こんな事に?
ここは広いお屋敷のお庭。目の前の台の上には綺麗なワインレッドのガラスの花瓶が置かれてる。
「へいへいへーい♪
口だけか?あんたのママが泣いてるよー!」
さっきからこの綺麗な怖いお姉さんは私をヤジる。
なんなの?この派手なお姉さんは私と同い年のお子さん居るの!
「あんた今、感情剥き出し!目だってイキイキしてるよー!
へいへーい!」
イキイキしてるわけ無いでしょ?!
死にそう!死にそうだよ!
もう一回だけ聞いてみよう…。
「この花瓶お幾らでしたっけ?」
お姉さんは呆れた声で、
「何度聞くのー?旦那がヴェネツィアで買ってきた掘り出し物の骨董品、カルロス スカルパの作品で?今円安だから1500万位?」
「ほ、ほ、本気でやるんですかぁ?奥様?」
呼ぶ時は奥様なの。奥様は笑いながら、
「あんた、何でもするって言ったじゃん?口だけ?
根性無し!毛虫ってあだ名が泣くぞ?」
毛虫ってあだ名は好きで付けられた訳じゃない!
何でもするって言ったけど…。
『へいへいへーい♪』
なんなの!なんで私がこんなに追い詰められなきゃ…。
なんなのー!私ばっかり!
口調は煽ってるけど、優しい瞳で私を見つめる、
『あたしの親友の娘でしょ!
幸せになりたきゃ、不幸を、自分で打ち破れ!』
私の中で何かがキレた。目の前の花瓶を私の不幸だと思い定める。
手に持つバットを握りしめ、いつもと違うバッティンググローブを馴染ませて動画で見たフォームを思い出しながら…
迷いなく!私はバットを振り抜く!
精一杯のフルスイング!初めてバットを振ったけど気持ちいぃっ!!
自分でもびっくりするほどの綺麗なフォームで私はバットを振り抜く!
花瓶にゆっくり吸い込まれる様にバットは伸びていく…。
パアァァン!!
一瞬で薄手のガラスは綺麗なキラキラへと形を変えて盛大に、無惨に飛び散る。あぁ1500万円…。
飛び散った破片のうち大きな一つが信じられないほどの飛距離が出て、やはり高そうなクリスタルぅ!って感じのお高い花瓶に命中して、その花瓶も、
バリイイィイン♪
お姉さんはスマホで録画しながら、ゲラゲラ笑ってる!
「2ヒット♪アレはバカラで100万。
なーに、さっきの花瓶ヤッたんだからあんなのオマケみたいなもんでしょ?」
しめて1600万円…。
人生終わった…。
腹を抱えて笑うお姉さんを横目に、
無惨なその光景を他人事の様に見ながら私は思う、
どうしてこうなった?
△ △ △
私はごく普通の両親の元に産まれた女の子。
東京23区の外れに家族3人で暮らす普通の家族。
パパはサラリーマン、ママは美容師。
ママは私をいつも褒めてくれて、私はママに髪をいじって貰う事が大好きだった。
ママはおっとりしてて上品で、綺麗な人で私の自慢だった。
パパはお調子者でカッコつけ。ママはそこが好きなんだって。
実際パパは男前!
私が小3の時にママがニッコニコで言った。
「弥生!弟か妹が産まれるよ!」
あ、私は弥生、
自分で言うのも何だけど近所でも評判の可愛い子だった。
ママ譲りだよねっ!って当時思ってた。
「妹!妹欲しいよー!」
私は必死にママにお願いした!なんとかして!
ママは困った顔で、
「…良い子で頑張り屋さんの弥生の頼みだもん、ママ頑張る!
じゃ、明後日神社へお願いに行こうか?」
今度のお休みに近所の大きい神社へお参りに行く事に。
だって妹が良いよ…。
ママは時々親友のお姉さんに会うけどそこで相手する男の子…。
すっごい子供で手が掛かるし、気難しいし、男の子は苦手。
…まぁ?男の子は私の事好きみたいで?毎回プロポーズしてくるんだよ?
まだ早いよ?って断るの。男の子って面倒!
そんな訳で私は断然妹派!
そんな憧れは一瞬で終わった。
ママが交通事故で亡くなったから。
もう、訳がわからない。
学校ですぐ支度して!って言われすぐ病院へ連れて行かれて。
パパに真顔で、
「ママが死んだ…。」
「一目だけでもママに会いたい…。」
交通事故って遺体の損傷が酷い事が多いって後で知った。
それにしてもさっぱり意味がわからない。ドッキリ?
「嘘でしょ!ママに会わせて!」
泣き喚く私を大人は止めない、その事が私に事態の深刻さを突きつける。
「会える訳ないだろ!」
パパは急に私をビンタした!
私はショックと頬の熱さに大泣き!
パパがまだ泣き止まないか!って言って私を再度引っ叩こうとして、周りの大人に止められる。
私はショックだった。
私の世界は主にママと少しパパで出来ていた。
そのママが…。
後から知ったけど事故の加害者は外国の人で無保険で乗ってたから賠償金?は出ないんだって。パパが必死になんとかなりませんか?!って食いさがってたけどお金なんか要らない…ママを返して…って思ってた。
「事故で金も貰えないなんて丸損じゃないか!」
パパの言葉も私はショックだった。
家族はふたりになった。
ママが居ないと家は回らない。
パパは私に厳しくなった。
「弥生!何度言ったらわかるんだ!」
「弥生!ダメだろう!」
パパは何でも私に禁止した。
ゲーム、スマホ、オシャレ、遊び。
「パパは働いてるんだから弥生は【ママ】の仕事しろ!」
口答えするとすぐビンタされた。
ビンタされて泣いてると、パパは抱きしめて、
「弥生、すまん、パパは弥生を愛してる…。」
そう言って私を抱きしめながらパパは泣いた。
私がダメだから…パパ怒るんだって思ってた。
…共依存…ってヤツだったんだ。
その日から私はこの家のママになった。
掃除、洗濯、炊事全部私の仕事だった。
もちろん手抜かりがあればパパに殴られた。
友達と遊ぶ事も部活も禁止されて私の世界にはパパしか居なくなった。
学校でも、放課後も遊びを断り、ひとりぼっちになった私はいじめられた。
毛虫を服にいっぱい付けられてあだ名が毛虫になった。
まっすぐ家に帰って慣れない家事を必死にこなした。
…でもこの時期の家事経験値が私を万能家事マシーンへと変えて、今私はここでメイドをしている。
無駄じゃ無かった訳だよね。
△ △ △
奥様はニッて笑い、親指を立てて言った、
「魂のフルスイングだったねー!
撮れた撮れた!良い画が撮れた!
あいつらの吠え面楽しみっしょ!」
(走馬灯って本当にあるんだぁ…。)
私は魂が抜けそうだった…。
奥様は、私を抱きしめると、
「絶対、親友の娘を虐待したあいつらを許さない!
弥生!着いて来なさい!」
「は、はいっ!」
私は奥様の後を慌てて追いかけた。
△ △ △
あけましておめでとうございます!
あるです。
カクヨムコンの短編企画に応募作品です、よろしくお願いします!
全3話です!
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