うみをこえた、こくはく

サカモト

うみをこえた、こくはく

 よくわたしに告白してくるコがいる。

 すぐに「好きです、せんぱい」と、ひんぱんに言ってくる、不定期に。

 歳はいっこ下で、学年もいっこ下。まん丸いまるい輪郭をした目のコだった。黒い瞳は、いつも、点、みたいになってて、その瞳は、とある刺激で大きくなる。

 その瞳の件をについては、そのコに教えたことがある。

 あんた、こういうとき、瞳が大きくなるよ、と。

 すると、こう返って来た。

「いえ、つい、瞳孔がひらいてしまいまして」

 と、いった。言っている意味を自身がまずわかっていない。フィーリングで受け答えしてくるフシがある。

 しかし、そういうこところに、みどころのあるコともいえる。

 とにかく、わたしによく告白してくる。「好きです」と、一言。そして、告白を放ってくるときには、いつも、点、みたいな瞳が大きくなる。

 でも、かいだくしたことはなかった。理由は、あれさ、タイミングが絶妙にわるいんだ、必ずゲキ悪るのときにしてくる。いまじゃないって、ときに。

 例、そのイチ。

 三日間のテスト期間中の中日、二日目の、英語のテスト開始五分前に、告白してきた。

 いまじゃない。

 例、そのニ。

 わたしがスマホを無くしたのにきづいてオタオタしているときに、告白してきた。

 いまじゃない。スマホは、教室にあった。

 例、その三。

 わたしが電車にかけこみ、トビラに挟まれて「ぶひっ!」と、ミニ断末魔をあげているとき、告白してきた。

 いまじゃない。

 それより、助けたまえ、文明にやらている哀れなわたしを。

 そんなふうに、ダメなときに告白してくる。そのコいわく、ここだと思ったら、ブレーキを破棄して、いってしまうらしい。

 こころがアレなのか、きみは。

 そんなふうに告白攻撃はよくされた。けど、そのコとの関係ベースは、ずっと良好だった。一緒にいると、いつも陽だまりにいる気分になる。話しも、べらべらする。雑談の質が似ていた。だから、あうにはあう。

 ただ、話し方は、歳はいっこ下で、学年もいっこ下なので、向こうはずっと敬語で話しいた。そのあたりの一線は越えないところが評価できる。

 そんなある日、お互いの誕生日が一日ちがいなのだと知った。そのコの方が一日、わたしより誕生日の日付がはやい、九月一日。わたしが九月二日。

 つまり、一年間のうちで、九月一日だけ、わたしたちは学年ちがいであるけど、同じ年齢になる。

 なにしろ、我がクニには、年長者には敬語を使うべしというのがある。

 そこで、わたしは「九月一日だけ、おんなじトシになるし、その日だけ敬語じゃなくタメ口でいいよ」と、ふざけて提案した。

 やがて九月一日がやって来た。

 ふたりで、ならんで歩きながら下校する。空は夕焼けだった。

 そして、そういえば、と、そのコは言い出した、せんぱいとは学年ちがいとはいえ、今日だけは同じトシなので、タメ口オーケー、だったですよね、と。

 ええよ。

 と、返す。

 すると、あいての点みたいな瞳が大きくなった。けいけんでわかる、ああ、来るぞ、告白攻撃が来る。

 しかも、今日はタイミングがいい。きれいな夕陽をバックにしている、シーン的にも、もうしぶんないし。

 さらに、タメ口もオーケー。

 どうくるんだ、毎回、好きです、だけだし。

 好きだ。

 で、くるのか。

 好き。

 とか、でくるのか。

 じつは、わたしは、ザツなあつかいにヨワい。

 わー。

 そのコはいった。

「Je t’aime《愛している》」

 ジュテーム。

 フランス語なのか。

 タメ口システム、完全無視か。

 こしゃくな。そして、くやしいので、こちらもフランス語を。と、あせって。

「merci《ありがとう》」

 つい、ムキになって、思いついたフランス語で返す。

 こうして告白は成立してしまった。

 わたしはこの事件のことを、心の中で、フランスからの刺客と呼んでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うみをこえた、こくはく サカモト @gen-kaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画