最終話 先輩、ずっと一緒ですね
絵里の狂気に満ちた愛によって、俺の日常は一変した。心が破壊され、拘束から解放されたとはいえ、俺はもはや外に出る気力さえなくなっていた。部屋の中で、虚無感に包まれながら、絵里の計画に翻弄されていた。
「先輩? これからどうしますか?」
絵里は優しく、しかし狂気じみた声で尋ねた。
「どこにも行けないので、このまま一緒に過ごしますか?過ごすしかないですよね?」
彼女の言葉に、俺は何も答えることができなかった。ただ、絶望の淵に立たされているような気分だった。絵里は毎日、何事もなかったかのように俺の世話をしていた。食事を作り、部屋を掃除し、表面上は完璧な世話人のように振る舞っていた。
しかし、そのすべてが俺には苦痛でしかなかった。絵里の行動の裏には、小川さんへの凄惨な行為が隠されていた。それを思い出すたびに、俺の心は激しい痛みに襲われた。
絵里の狂気的な愛情表現は、俺にとっては拷問に等しかった。彼女の愛情は、俺を縛りつけ、自由を奪うものだった。小川さんの安否も分からず、俺はただ絶望の中で日々を過ごしていた。
時が経つにつれ、俺はすべてに対して無感覚になっていった。外界との接触を完全に遮断され、絵里の狂気に支配される生活。それが俺の新しい「日常」になってしまった。
「先輩、今日も一緒に過ごしましょうね」
絵里の声は、どこか遠くから聞こえてくるようだった。彼女の言葉に、俺はただ無言で頷くしかなかった。
絵里の狂気的な愛によって、俺の心と精神は完全に壊れてしまった。何も感じられなくなった俺は、ただ時間が過ぎるのを待つだけの存在になってしまった。
そして、俺は深く思った。これが絵里の求める愛だとしたら、それは最も残酷なものだ。愛が狂気に変わる瞬間、人は自分自身を見失い、他者の心を傷つける。そんな愛は、本当の愛ではない。
俺はただ、無力感と絶望の中で生きていくしかなかった。絵里によって作り出された狂気の世界で。
絵里は、彼女が計画を実行する前に亜美と話をしていたことを嬉しそうに語った。その会話の内容は、亜美に対する脅迫だった。亜美が協力しなければ、俺の人生や亜美の人生をめちゃくちゃにするというものだった。
亜美も絵里に脅されていたという事実を知り、俺の心はさらに絶望に沈んだ。絵里は自分の計画を達成するために、何もかもを犠牲にしていた。彼女の言葉は、自慢げであり、その狂気に満ちた表情は、俺をさらに追い詰めた。
「ふざけてる……」
俺はその言葉を呟いたが、もう何も感じなかった。絵里の狂気の計画によって、俺の人生は完全に狂わされてしまった。前に進めない、何も変えられない。そんな無力感が、俺を覆っていた。
絵里は、亜美を脅してまで自分の狂った愛を実現しようとした。その事実は、俺にとってあまりにも残酷で、理解しがたいものだった。絵里の愛という名の下に行われた行為は、ただの破壊と狂気に過ぎなかった。
俺はただ、その場にいることしかできず、絵里の計画に完全に翻弄された。自分の心がどこにあるのかも分からなくなり、ただ時が過ぎるのを待つだけの存在になってしまった。
絵里の声が部屋に響くが、もうそれに反応する気力もなかった。俺の中で何かが壊れ、もはや何もかもがどうでもよくなっていた。
これが絵里の求めた「愛」の結末。それは、愛とは名ばかりの、ただの狂気と破壊の連鎖だった。俺は、その狂気の中で生き続けることを余儀なくされた。
俺は大学に行かなくなった。心配した亮介が家まで来て、俺に何があったか尋ねたが、俺は何も答えられなかった。絵里が出てきて、大丈夫だと亮介を追い返した。
「亮介、ごめんな……俺はもう疲れたんだ」
心の中で謝りながら、俺は無力感に押しつぶされていた。大切な人を二度も奪われた苦痛が、心をズタズタに引き裂いていた。
「もう死んでもいいかもしれない……」
そんな思いが頭をよぎる。そのうち、亮介も来なくなった。誰も俺を助けることはできなかった。
風間隼人のその後は知らない。知りたいとも思わない。彼のことは、もう関係ない。
しかし、絵里は時々、小川さんと一緒にいるところを見せつけてくる。彼女たちが楽しそうにしている姿を見ると、俺の心はさらに混乱する。それが何を意味するのか、もう考えることさえできない。理解しようとすると、心が完全に壊れそうになる。
「なんでこんなことに……」
俺は自問自答を繰り返すが、答えは見つからない。絵里の狂気によって、俺の人生は破壊されてしまった。もはや、希望を見出すこともできず、ただ時が過ぎるのを待つだけだった。
絵里の声が部屋に響いても、もう何も感じなくなっていた。すべてが虚無に感じられる。絶望の中で、俺はただ生きているだけだった。
何もかも失った俺は、完全に敗北した。友達も、恋人も、新しい出会いも、すべて奪われ、破壊された。今や、俺には何も残っていない。
「はい、先輩! ご飯ですよ!」
絵里の声が部屋に響く。彼女はスプーンでご飯を運んでくれる。まるで介護されているような状態だ。
食べるとき、涙が自然と流れ出る。
「なんで俺はこんなになってしまったんだ……」
警察に通報することも考えた。でも、俺だけがこんな状態になっている。小川さんにも迷惑がかかる。これが犯罪だというのに、絵里と風間が悪いのに、俺は何も言えなかった。
「何もかも、もう終わりだ……」
俺は虚無に包まれたまま、食事を続ける。絵里の「世話」が続くが、もはや何も感じない。ただ、絶望の中で生きているだけ。
俺は自分の魅力のなさに気づいた。男としての魅力、力強さ、女性の気持ちを理解する能力、決断力。それら全てに欠けていた。だから亜美も、小川さんも奪われたんだ。彼女たちを満足させることができなかったから。
何もかも失った今、俺は皮肉にも笑ってしまった。久しぶりに笑うことができたのは、自分自身の情けなさに気づいたからだ。
その笑いを見て、絵里は喜んでいた。
「そんなに私の料理がおいしかったですか? 嬉しいです! 笑うぐらいに美味しかったんですね!」
でも、俺の笑いは絶望から生まれたものだった。自分の無力さ、周りの人々を守れなかった自分への蔑み。全てが俺を苦しめ、この笑いを引き起こした。
絵里は俺の心の状態を理解していない。彼女はただ、自分の行動に満足しているだけだった。俺の真の感情を理解することはない。
俺は絵里の世話になることを受け入れた。もう何もかもがめんどくさい。このまま彼女の手の中で生きていくのも、それほど悪くはないのかもしれない。
「あぁ、美味しいよ」
俺は無感動にそう言った。頭の中はあの時の選択、どうすればよかったのか、後悔の思いで満ちていた。でも、今さら変えられるわけもなく、俺の心は虚無に包まれていた。
絵里は嬉しそうに言った。
「これでやっとずっと一緒にいられますね、先輩」
俺はただ黙っていた。これからの人生を考えると、絵里以外に俺を真剣に好きになってくれる人はいないだろう。すべてが壊れ、失われた後の俺には、もはや他に選択肢はない。
絵里の「愛」は、俺を完全に支配していた。彼女の手の中で、俺はただ存在するだけ。何も感じることはなく、ただ時が過ぎていくだけだ。
俺の心は完全に破壊され、もはや何もかもがどうでもよくなっていた。これが俺の選んだ道。これが俺の運命。
俺は部屋にこもり、彼女の世話になる毎日を送った。ずっと考えていた。俺がもっと強かったら、こんなことにはならなかったのかな。でも、絵里は尽くしてくれる。こんな彼女がいるのは、悪くないのかもしれない。
でも、それは自分を納得させるための言い訳に過ぎなかった。本当は、何もかもが嫌だった。失われたもの、奪われたもの、全てが蘇ってくる。
「みんな、ごめん……俺が弱かったから、こんなことになって……」
俺は独り言を呟いた。
「でも、よかったじゃないか、こんなに尽くしてくれる彼女ができて……」
言葉の途中で、俺は乾いた笑いが止まらなくなった。笑いながらも、心の中は虚無で満たされていた。笑っているけど、笑いごとじゃなかった。
俺の心は壊れ、もはや何も感じることができなかった。絵里の世界の中で、ただ時間が過ぎていくだけ。それが、俺の選んだ道。それが、俺の終わりだった。
フラれた彼女のことを忘れようとしたのに、彼女の妹は全て知っていた ワールド @word_edit
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