ロストデイズの再開(終)


          ⭐︎⭐︎⭐︎



「あ、レイチェル」

「ぶぇ!? お、オジサン!?」


 公園のベンチから歩き出した彼が、木立のカフェテラスから駆け出した彼女を街角で見つけたのは、まったくの偶然であった。シャフトは今日は休みをもらっていたけれど、新企画のアイディアも出たからと編集部に向かっていたし、レイチェルは、懐かしき祖母の家で公には出ていない日記なんかを見返そうとしていたところ、たまたま出くわしたのである。


「急いでるね。また、警備局の仕事?」

「ん、ま、まーね。そっちのヤボ用は片して時間できたんで、ちょい私用で移動中っつーか」


 不意打ちから立て直り、平静に受け応える有能警備局員……それもこの瞬間まで。


「あのさ。ちょっと時間いい? 付き合ってもらえない?」

「…………ん? んん? ————えっ、えぇぇぇえ!?」

「わっ。どうしたのそのリアクション、もしかして、迷惑だったりとか、」

「いや無いケド。ありえんデスケド絶対それは万が一にも確定で。ただその、そのね、そっちからこういうふうに誘われるのって、あんまなかったよね、って」


 二人で生活する中、世話を受けている遠慮に忙しい警備局員への配慮もあって、シャフトからレイチェルに何かを望んだりなどがとにかくなかった。驚きも当然と言える。

 その例外的行動の理由を、シャフトはさらりと明かす。


「ほら。この前だったじゃない、レイチェルの誕生日」

「————あ」

「僕、ちょうどそのタイミングでは、一緒にいられてなかったからさ。一応、今の記録では、編集部のみんなと一緒にパーティなんかはしたっぽいけど……僕はやっぱり、この自分の記憶で、ちゃんとした実感付きで覚えていたい。出来れば君にも、同じ実感で、同じ思い出を、覚えていてもらいたい」

「…………」

「他の人を誘うと、訝しまれちゃうから。二人でお祝い、駄目かな。プランとか特になくて、行き当たりばったりで、トラブルなんかもあるかもだけど——」


 答えは、言葉でなく、行動で。

 レイチェルはシャフトの隣に並んで、ぎゅっと腕を組む。離さぬように。離れぬように。

 紐とつけて。

 結ぶように。


「生まれてよかったって思える日にしてね、シャフト。今日は、そちらに指揮権委譲します。命令、復唱」

「……了解。お楽しみくださいませ、主賓で主役のミッセ様。シャフト・エーギリー、不束ではありますが、隊長役、務めてみせますとも」


 そうして、改めて今日が始まり、ふたり、揃って一歩を踏み出す。

 何の歴史にも刻まれない、ほんの些細な日々の記録。


 ——けれど。

 今日のことは、何年後にも何十年後にも、思い出して笑うのだろうな、と。

 円柱頭の青年と、白銀心はくぎんごころの少女は、同じふうに想っていた。



《Lost Head Live Memory》

《The End.》


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ロストヘッドの再生 ~復活アラサー帰還兵、16歳のヒモになる~ 殻半ひよこ @Racca

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