女性建築家ジュリア・モーガン(2) ハースト・キャッスル

 ジュリアはハースト・キャッスル以外にも、オークランドのミルズ・カレッジ(女子大)、女性リーダーを育てるYMCAなど、多くの建物を手掛けました。


これらは女性が主役の建物で、ジュリアは女性の社会的地位向上にも力を注いだのでした。

 しかし、サンフランシスコの市内に並ぶ大きなビルには、彼女が設計した建物はない、というのが現実なのです。


 ジュリアは生涯独身でした。

 78歳で事務所を閉める時、すべての資料を消去した、と広く伝わっています。普通、設計図などの書類は、後輩のために残すものだというのです。

 しかし、こういう噂は誰が流すものなのでしょうか。ジュリアの設計図などは、カリフォルニア工科大学にちゃんと残っているというのに。


                 

 ハースト・キャッスルは1919年から1947年まで完成までに28年もかかり、総工費10ミリオンドルでした。

 こういう後世に残る大建築を手掛けることは、建築家の夢で、誰もがやってみたかったことでした。


 現在ハースト・キャッスルはカリフォルニア州が所有し、歴史的建造物として、有料で一般公開されています。もっとも訪問客の多い歴史的建造物だそうで、そのスケールの大きさと豪華で、人々のため息を誘っています。


 建物はスペイン、イタリアルネッサンス、ギリシャ、メキシコ風など、建物にも、装飾品にも、いろいろな趣向が見られます。


 ところで、ハースト・キャッスルは、当時から専門家の評判はよくありません。

 他の(男性の)建築家からは「物まね」だとか「テイストが悪い」という酷評が相次いでいます。


 それは一概に的が外れているわけではありませんが。

 その時代の代表的な建物や家具というものは、その時代の「顔」でなければなりません。それがどんなに立派でも、他の時代の模倣であってはいけないのです。

 その人が生きた時代を表現する、オリジナルなものであるべきなのです。

 

 そういう意味では、ハースト・キャッスルは豪華で驚くべきものではあるけれど、ジュリア自身の創造的なところがない。建築家としての能力が低いと批判する人がいるのです。


 でも、こういうもっともらしい意見を、何も考えないで、鵜呑みにするのは危険です。女性向上の足を引っぱっているのが女性だ、というケースは多々あります。


 ハースト・キャッスルは、ハーストが子供の頃にヨーロッパで見て感動した建物をイメージしたもので、そういう人間の夢を実現した建物だと考えるべくで、ある意味、20世紀初期のカリフォルニアン・ドリームを表した「顔」です。


 そういうふうに考えることができるのではないでしょうか。


「You've Come A Long Way, Baby」

 バージニア・スリムは現在完了形でしたが、我々にとってはまだ現在進行形ですよね。

 

 





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