サンフランシスコを作った男(6) エリザベスの願い

その扉には、上から

   「Page

    Ralston

Beckingham」

  と3つの名前が書かれていた。

  

Page(ページ)がラルストンの次女エミリタ・ソーンの嫁ぎ先で、Backinghan(バッキンガム)というのは、ページの娘の嫁ぎ先の名前である。

 つまり、ここにはラルストンと妻のエリザベスと、娘と、孫がはいっているということである。少なくとも、4人がこの中にいる。


初めにラルストンがはいり、次にエリザベスが来て、その次に娘と孫が加わったということなのだろう。


「ここに納められているのって遺骨ですか、遺灰ですか」

 とステープに訊いたら、彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。それで、彼には遺灰という考えがなくて、当然、ここには遺骨がはいっているのだろう。


 つまり、ここはひとり用のスペースなのだから、エリザベスが遺灰になって、ラルストンの上に、撒かれたということだろう。だから、エリザベスは遺灰にしてほしいと遺書に書いたのだ。


 エリザべスが灰になってここにいることを、どのように解釈すればよいのだろうか。

 エリザベスはさいごまで夫のことを思っていたということなのだろうか。ルイーズ・ソーンには、決して渡さないということだろうか。

 だとしたら、すごい愛というか、執念である。

 

 エリザベスはもともと強い意志の人だったのだろう。精神も身体も強くて、いろんなストレスがあったと思うが、92歳まで生きることができた。

 私は同じ女性として、「やったね」とは思う。


 一方、妻と娘と孫にガードされているラルストンに気持ちがあったら、どんなふうに思うのだろうか。家族に囲まれて幸せだと思っているのだろうか。


 それとも、自由になった魂は、やはり愛するルイーズ・ハリエット・ソーンのところに飛んでいって、あそこにはもういないのだろうか。


 

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