ミセス・ホプキンズの再婚 (5) 最もラッキーな男?
巨額の遺産を手にしたエドワードは再び、正々堂々と散財を始めた。メリーが死んでからの約30年間というもの、エドワードはありあまるお金を使いに使った。
彼はもともと音楽が大好きで、ピアノも弾けた。
ボストン・ミュージックホールにあった巨大なパイプ・オルガンを購入し、かつて働いていた製糸工場の土地に、そのオルガンをいれる建物を著名な建築家に建てさせ、自分ひとりで楽しんだ。
またオルガン会社を作り、学校、教会、橋を建てて寄贈し、地元の大学に彼の名前のついた「科学センター」を作ったりもした。邸も6軒も所有し、中には城と呼ばれるものもあった。
使い切れないほどの資金があるのだから、とにかく、エドワードはやりたいことは何でもやった。
世間からは、「マーク・ホプキンズのお金を使った最もラッキーな男」と呼ばれた。
そのラッキーな男、エドワードの人生は79歳で終わった。
日々に、幸せを噛みしめた人生だっだのだろうか。
その遺書が公開された時、世間が驚いた。
遺産のほとんどは秘書のアーサーに贈ると書かれていたからだった。この秘書は男性である。
このことに関して、人々は「ああ、やっぱり、そうだったのか」と納得した部分があった。誰もが内心、やはりメリーは利用されていただけで、エドワードが愛していたのはアーサーだったに違いない。アーサーこそが彼のパートナーだったと思ったからなのだった。
しかし、そういうことではなかった。
事実はもっとややこしい。
ところで、エドワードには甥がいて、財産は自分にくるものだと信じていた。それがすべてアーサーにいったので、今度は甥がこれはおかしいと思い、裁判所に訴えた。
その裁判を通して見えてくるのが、
「ラッキーだと言われたエドワードが、実はラッキーな日々を送っていたわけではない」
という人類普遍の方程式が、彼の場合にも当てはまっていたということである。
アーサーの裁判について述べる前に、もうひとつエピソードを書いておこう。
メリーの遺産裁判が落着してから数ヶ月後、
「これはさらなる大スキャンダルか」
とニューヨークタイムズが、見出しにそう書いた事件があった。
ローエルという男がエドワードを訴えたのだった。
ローエルはエドワードがサンフランシスコにインテリアデザイナーとして向かうまで、ボストンの同じ室内装飾の会社で働いていた仲間だった。
メリーの遺産問題でテムシ―から訴えられた時、エドワードはローエルを久しぶりに呼んだ。そして、裁判の間、「ジョージ・ウィリアムズ」という男を、裁判をしているマサチューセッツ州には近寄らせないように見張ってくれと頼んだのだった。それで、ローエルは仕事を辞めて、ジョージを見張るのに専念したのだった。
遺産裁判の後、その手当ては支払われたのだが、金額が約束より随分と少ない。これは話が違うではないか。ローエルはエドワードに何度も催促するのだが会ってはくれず、秘書のアーサーが出てきて、「ご主人様は払う必要はないと言っている」の一点張りだった。それで、らちが明かないから、訴えることにしたのだった。
ジョージ・ウイリアムズというのは髪にカールのかかったローズ色の頬をした美しい青年で、ローエルはその写真を持っていると言った。
エドワードが愛したのは「ローズ色の頬をしたジョージか」、と新聞が騒いだ。
しかし、その件はすぐに法廷外で解決したので、それ以上、新聞を賑わせることはなかった。
実は、テムシ―が訴えた裁判の時、彼の弁護団が捜していたのは、このジョージ・ウィリアムズ青年だったのだ。
テムシー側としては、エドワードが真に愛している人はジョージで、メリーと結婚したのは財産を奪うためだったと立証したかったのだ。
しかし、今となっては、もう遅いのだった。
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