ミセス・ホプキンズの再婚 (2) 恋した相手は22年下のイケメン

 エドワード・シアレスの父親はマサチューセッツの製糸工場で働いていたのだが、彼が3歳の時に亡くなり、母親の手ひとつで育てられた。

 12歳の頃には父と同じ製糸工場で働いていたそうだが、そのうちに理由はわからないがそこをやめて、商店で働いていたという記録がある。

 

 そんなエドワードはただの店員ではなかったようだ。

 彼にはいつも高尚な趣味への憧れがあった。誰に感化され、どこでどんなふうに勉強したのかはわからないが、美術や音楽には特に興味があった。

 その後、大工の見習いとなり、そこで働いていた時に建築や内装を学び、インテリア・デザイナーになったのだった。

 

 彼は学校には行かなくても、学びたいという気持ちが人一倍強く、また何をやってもすぐものにしてしまう器用な人らしかった。それに、チャンスを活かせる人なのだ。

 彼は誰に連れていってもらったのかは不明だが、イギリスに住んでいたことがあり、そこでジェントルマンのマナーを身に着けたのだった。

 

 洗練されたロンドン仕込みのマナー、その上長身でハンサムときているから、インテリア・デザイナーになった彼は、女性客からは大変人気があった。


 エドワードが目の前に現われた時、メリーは心臓が勝手にどきどきと音をたてだした。彼女は少女時代からロマンス小説が大好きだったが、「恋」というのは自分には関係ない遠い世界で起こるできごとだと思っていた。

 しかし、今、その恋物語が、本当に始まったのだった。


 メリーとエドワードは共通点が多いことが、メリーを有頂天にさせた。

 ふたりとも東部の生まれで、それに故郷が近いのだ。フランシスというミドルネームが同じ、趣味も同じ。日本式に言うなら、「赤い糸で結ばれている」とメリーは思いたかったのだろう。


 恋する女性は、まるで十代の少女の初恋のように、どんなことにも「縁」を感じたのだった。

 恋をすると、回りの人々の口がうるさく思える。それに、迷惑な噂ほど、腐物に飛んでくるハエのように、あっという間に広がるのだ。


 エドワードとのことが世間に知られるようになり、メリーはサンフランシスコ中の「噂の人」になってしまった。

 もうこんな町は、我慢ができない。


 それに、内装の仕事が終わってからは、エドワードとは全く会えなくなってしまった。それが一番悲しい。彼も会いたいのかもしれないが、噂のことがあるから、顔を見せてはくれないのかもしれない。ここにはもう住みたくはない。

 

 故郷に帰ろうとメリーは決心した。

 そうだ、故郷に屋敷を建てよう。

 エドワードに仕事を頼めば、また会えるかもしれない。

 まるで八百屋お七である。火はつけないけれどね。


 ある日、メリーはエドワードを屋敷に招いて、おそるおそる尋ねてみた。

「東部に帰ろうと思うのですが」

「それは、よい考えです」

 と彼が微笑んだ。


「この町には金満家が溢れていますが、文化や芸術といったものがありません。そういうものを重視される方はみなさん、東部に帰られます。いくら気候がよくても、どんな立派なお屋敷がおありでも、ここにメリーさんがお住みになられるというのには、お辛いものがあるのではないかとは思っておりました」

「そうですよね、やはり住むのは東部ですよね。私、故郷のバーリントンに家を建てようと思うのですが、どう思いますか」

「さすがメリーさんです。なんてすばらしい考えなのでしょう」

「そのことなのですが、私の家を建てる仕事を引き受けてもらえないでしょうか」

「こんなぼくでよかったら、喜んで」


 

 その屋敷の建築が始まった1887年、その年にふたりは結婚することになった。

 メリー69歳、エドワード47歳だった。メリーさん、やるではないか。


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