ミセス・ホプキンズの再婚 (1) 夢の王子の出現
ビッグ・フォーの最後はマーク・ホプキンズ(1813-1873)
彼はニューヨークの清教徒の家に生まれ、7人兄弟の5番目。郵便局長だったと父親を早くに亡くしたので学校をやめ、16歳から店員として働いた。若い時のこれといったエピソードは見つからない。
36歳の時にカリフォルニアに来るが、慎重な彼は、危険なパナマ越えはせず、船で南米のホーン岬回りで、8ヶ月かけてやってきた。
彼はサンラメントで店を開いたが、後にハンティントンと雑貨屋を共同経営することになった。ハンティントンはマーク・ホプキンズほど信用のおける者はいないと絶対の信頼を寄せていた。
ビッグ・フォーが鉄道会社を設立して、巨万の富を得ることになる。国からの補助金や土地の権利、鉄の購入などに関してグレーな部分が多く、「貴族泥棒」などと呼ばれたということはすでに書いた。
しかし、ベジタリアンで痩せ型、話す時には少し舌っ足らず、地味で謙虚な「マークおじさん」のことを悪く言う人は少ない。
マーク以外の3人は、もし鉄道という事業に関らなかったとしても、必ず別のチャンスをつかみ、何かをやりとげた人だろう。
だが マークだけはハンティントンとの出会いがなければ、ただの店主として終わっていたかもしれない。
ただこの4人組の中にマークがいなかったら、鉄道会社は成功しなかったのは確かだ。個性が強すぎる3人は激しくぶつかって、途中で決裂していたことだろう。グルーブの中心はハンティントンだったが、3人をしっかりとつないでいた要は、マーク・ホプキンズだった。
3人にとって、年上のマークがいたことは幸運だった。ただ、マークが3人と出会ったことが幸運だったのかというと、それはわからない。
彼は小さな店を守り、庭に野菜でも植えて、節約しながらひっそりと暮らしてほうが幸せだったような気がする。
彼は41歳で、いとこのメリー・フランシスと結婚することになった。メリー・フランシスは故郷で教師をしており、その時すでに35歳になっていた。
結婚した後、ふたりはサター通りの借家につつましく住んでいた。けれど、メリーは4人組の3人が、ノブヒルという高台の豪勢な屋敷に住んでいるのを羨ましがり、自分もああいう所に住みたいと夫にしつこく頼んだ。
それで、スタンフォードが土地を分けてくれたこともあり、そこに屋敷を建てることになったのだが、その建物の建築が始まろうとする頃に、マークは死んでしまった。
マーク・ホプキンズは体調を崩し、アリゾナに静養に行く途中、汽車の中で息絶えた。彼はまさかここで一生が終わるなんて考えていなかったのだろう、遺書を残していなかった。
彼が死んだら、財産はどうすべきとか、跡継ぎの問題とか、墓はどこに作ればよいのかとか、何も言わずに逝ってしまったのだった。あれほどアラベラ・ハンティントンの秘密を隠すのに画策したマークだったけれど、自分のことに関しては何も準備しないで、人生の幕を引いてしまった。
未亡人になった時、メリーは59歳だった。
これまでケチな厳しい夫に合わせて生きてきた人生に、突然、別のページが開かれたのだ。ページは真っ白、メリーは不安でならない。
彼女はまず、テムシーという20歳の男の子を養子にした。彼は家政婦の息子で、3歳の時から育ててきた。
テムシ―の母親はアイルランド移民の若い未亡人で、メリーのところで働いていた。その彼女が再婚してニューオリンズに行く時に、テムシーはホプキンズ家に残ることになったのだった。子供がいなかったメリーが強く望んだからだと言われている。
マークが生きていた時、テムシーを実子のように接し、スパルタ教育をしていたが、養子縁組はしていなかった。
マークが死んだ時、テムシーは東部のハーバード大学に行くのを断念して、メリーのそばで暮らすことにしたのだった。
メリーは建築が始まったばかりの屋敷を、なんとか完成させなければならなかった。家を建てた経験のある人なら、建築工事の過程がどんなに難しいものか、ご理解いただけると思う。
彼女の夢の屋敷は、ロマンスや歴史小説が好きな彼女の趣味で設計されていて、アイデアが詰まりすぎて統一性がなかった。その姿が見えてくると、人々は「趣味の悪いウェデングケーキ」と呼んで嘲笑した。
ねちねちと苛めるのが趣味のいわゆる上流階級の有閑夫人達は、もともと田舎くさいメリーを見下していた。メリーの前では、ワンダフルな家ね、と言ってくれても、陰では話の種にして大いに笑っているらしい。そんな噂はメリーにも聞こえてきた。
メリーは誰も信じられず、その猜疑心は日々に強くなり、友達との付き合いもやめ、何かと喧嘩っ早い性格になっていった。たぶん彼女は悔しくて、孤独で、混乱していたに違いない。
メリーにはテムシーがいたが、なにせまだ若い。メリーは誰か、頼れる人がほしかった。
そんな時、インテリアの会社からひとりのデザイナーが送られてきた。インテリアの会社が、あまりに文句の多いメリーに辟易して、若くてハンサムで話し方が流暢なエドワードという男性を差し向けたのだった。
ハンサムなインタリアデザイナーがドアを開けてはいってきた瞬間、メリーは恋に落ちてしまった。
メリーの前に、白馬の王子様が現れたのだ。
メリーは少女に戻った。夫のマークは大きな仕事をする偉大な人だから尊敬はしていたけれど、そこに恋はなかった。だから、これがメリーの初恋。
相手はエドワード・フランシス・シアレス(1841-1920)といい、23歳も年下だった。
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