第8話 大団円
そんな復讐劇であったが、そもそも、
「なぜ、勉が引っかかったのか?」
ということについて、小平はずっと引っかかっていた。
さらに、もう一つ引っかかることがあったのだが、それは、
「何となくやり方は雑で、作戦とは言えないような感じであるが、どこか自分と似たところがあるんだよな」
というところであった。
ただ、それは、
「何となく引っかかっている」
というくらいで、それが今回の事件と、どのように引っかかっているのかまでは、分かるわけではなかった。
とにかく、おぼろげながらに何かが分かってきているようなのだが、詳細までは分からない。
ただ、
「もし、分かったとすれば、これほどバカバカしいことはない」
と言えるのではないだろうか。
実際に、ここまででも、
「もしこれが、嫡男でなかったら、バカ中しくて応対などしていられないといえるレベルである」
と思った。
そもそも、
「オンナに美人局で引っかかるなんて、なんて間抜けな。そして、危機感のないといえるのだろう」
と思えた。
「では、一体、俺は何に対して怒りをぶつけているのだろうか?」
と考えると、一目瞭然なことに変わりはないくせに、実際には、怒りをと追い越して、正直、
「感覚が薄れているのではないか?」
と思えてきた。
まずは、やつらに会う前に、どうしてターゲットを勉にしたのかということを、調べられる範囲で調べようと思ったのだ。
脅しを掛けて吐かせることもできるだろうが、もしウソをつかれたり、警戒されると、結果分からなくなってしまうこともありえそうだ。
それを考えると、実際に聴くということはしない方がいいように思えたのだ。
小平独自の情報網は、その変の警察ややくざよりもしっかりしている。
何しろ、金は唸るほどあるのだ。
しかも、ここの社長は、先々代からの教訓で、
「お金の使い方さえ間違っていなければ、いくら使っても構わない」
ということであった。
ただ、それを間違えて、家を壊すようなことがないように、参謀という地位ができたようなものだったのだ。
そんな山中家の代々の伝承に、いかにうまくまとめていくかが、小平の手腕だった。
しかも小平は、世襲ではなかった。
「世襲は、参謀ではあってはいけないことだ」
というもので、
「もし、主家が世襲を辞めない限り、自分たちが世襲を行うことはできない」
つまりは、
「参謀か主家、どちらかが世襲でなければいけない。それはどちらであったもいいのだが、どちらも世襲、あるいは、どちらも違うというのはありえない」
ということであった。
ただ、今のところ主家が世襲を行っているのだから、ある意味、一番うまくいっている。
参謀が世襲を降りなければいけないのであれば、主家が世襲をしなければならない。
どうやら、このあたりのいきさつは、
「山中家と、小平家の関係にあったようだ」
というのも、明治時代までは、小平家が主家で、参謀は山中家だったという。
戦後から、今の体制に変わったのだが、小平家が、
「世襲ではいけない」
というのは、修平が子供の頃にいわれていたことであり、ちょうど山中家が世襲でうまくいっていた時期だったのだ。
戦後の動乱なのだから、
「うまくいっている」
といっても知れている。
小平も先代も、ハッキリとは分かっていないようだった。
そんな過去の話は、小平は少しは聞いたことがあったが、息子は知らないだろう。
もちろん、勉も知っているわけはないと思うのだが、以前、幸隆が何か知っているようなことを言っていたのを思い出した。
「長男も知らないようなことを、よく次男が知っていたな」
と思ったのだが、普通に考えれば、
「父親が教えた」
と考えるのが、一番無難ではないだろうか?
ただ、それを長男が知らないというのもおかしなもので、
「世襲であれば、嫡男が存命であれば、嫡男が一番偉いのだ」
ということは当たり前のことだ。
というのは、先々代からの決まり事だったはずである。
先代、つまり今の会長も、そのことを小平には何も言わない。
小平とは、今まで、
「一蓮托生」
として、ずっと歩んできた仲間だったではないか。
小平にとっては、先代と、子供たちの仲に、何か不都合があったようには思えなかった。
ただ、今回の、
「美人局事件」
であるが、これにしても、
「どうして、勉が選ばれたのだろう?」
と思うのだった。
確かに、大きな、金を持っている会社の社長ということになれば、
「守りたいものがある」
ということで、金を出すと考えるのは普通なのかも知れないが、山中家というと、その変の会社と違い、全国的にも大手で、いろいろな産業にも手を出しているところだったのだ。
しかも、その社長である勉が、いくら何でも、美人局にやられるなど、ちょっと信じられなかった。
「誰か信用できる人でも仲介に入っていなければ」
ということで、まだ表に出ていない、その人物がどのようなことをもたらしたのかということが気になるのだった。
父親の考えもよく分からない。これまで一蓮托生だと思っていた先代も分からなくなりかかっていたのだった。
ただ、彼らに対しての制裁は決まっていた。その前に、
「いかにして、少しでも、裏で暗躍している連中の尻尾を、掴むことができないだろうか?」
ということを、小平は考えていたのだった。
だから、本来なら、地ならしができれば、すぐにでも行動に移るであろう小平が、躊躇しているのを見て、部隊を形成している連隊長のような人たちは、不思議に感じていたのだ。
今まで、いろいろなトラブルを裏に回って、処理をしてきた。江戸幕府でいえば、
「御庭番衆」
であったり、
「新選組」
のような浪士であったりしたのだろう。
そんな彼らに、小平本人は、
「まさか、自分が、そんn弱気な姿勢を見せているなど、想像もしていない」
と思っているに違いない。
バカップルに遭う前に、まずは、やつらの素性を確認しておいた。
やはりどこかの組織と表立っては関係していないようだが、小平の部隊に掛かれば、簡単に分かってしまう。まるで忍者のごとく、相手が振る舞っているので、バカップルとの連絡も、普通では信じられないような方法で行っていた。
それが、逆に味方も欺くような形になり、二重三重に幕が張られている。
「バカップル」
のような連中を使ったのも、そのためだったのだ。
根気よく探ってみたが、なかなか見つからない。そして、それでも自分独自の捜査網を駆使して捜すと、ある点から見付けることができた。
これはある意味、小平だから見つけることができたのだ。警察のように、
「組織的な動きをするところ」
では無理だっただろう。
それだけではなく、小平という人間。いや、山中家というものに関わっていることでしか分からないことが原因だったのだが、正直、小平のような百戦錬磨の男でも、
「ウソだろ?」
と感じたほどだった。
そこで、次に考えたのは、
「じゃあ、今度はあのバカップルから、責めるか?」
ということであった。
組織を使って二人を拉致してきた。これは、実に簡単なことで、二人は無防備、自由に行動していた。事が済めば、後はもう組織とは関係のないということで、逆にあのバカップルとは、もはや関係ないということにしておく方が組織としても、後味が悪くなくて済んだのだ。
ただ、真犯人は少し気になっていたかも知れない。
実行犯とすれば、
「もう自分たちには関係のないことで、こんなクソみたいな犯罪はすぐにでも忘れてしまいたいのだ」
と思っているに違いない。
だから、犯行グループは、今はバカップルとは関係のないところにいるが、犯人側は、そうもいかない。一応、バカップルと面会もしているからだ。
小平は、捕まえてきたバカップルを尋問した。
「お前たちは、何が目的で、こんな美人局のようなことをしたんだ?」
と聞くと、
「俺たちは、元々自分たちだけでやってたんだ。そこへ組織がやってきて、最初は大目に見てたけど、もう見過ごすわけにはいかない。だから最後に一つ仕事をして、それで終わりにしろと言われたんだ」
というではないか。
「その仕事というのが、山中勉を陥れることだったんだな?」
と言われて、
「ああ、そうさ、あいつは本当にチョロかったせ。今までの連中よりもな。ただ、それなりに教育を受けているからなのか、最初はコロッと騙されていたが、次第に怪しむようになってきたのさ。それには俺たちもビックリしたけどな。だから、上の人に、やめた方がいいかもって言ったんだが、ここまで来てやめられないって言われたんだ。だからしょうがなくやるしかなかったんだ」
というではないか。
「じゃあ、お前たちを操っている連中って誰なんだ?」
と聞くと、二人は黙りこんでしまった。
「お前たちが黙り込んでいるなら、それでもかまわないのだが、お前たちはそれで本当に安全なんだって思っているのか?」
と聞かれて、さらに黙っていると、
「お前たちは組織から、こちらとは一切関係ないから、余計なことを喋るなと言われているんだな」
というと、バカップルも、少し反応したようだ。
「なるほど、お前たちはそれを信じたようだが、組織は、自分たちが手を下さなくても、お前たちはもう終わりだと思っているようだ」
と小平がいうと、二人は急にビビッてしまうと、
「どういうことだ?」
と聞いてくるので、
「お前たちは、今までいろいろ美人局をやってきたのだろうが、それは、相手が金持ちを狙ったわけだろう? しかも、有名人、著名人などをターゲットにしてな。それは警察に訴え出ないということだけを考えてのことだったのかも知れない、なぜなら、彼らには、守るべきものがあるからさ。特に世間に知られることは致命的だ。だったら、少々の金で解決できるのであれば、と思うのは当然さ」
と小平がいうと、
「それがどうしたっていうんだ?」
ときくと、
「お前たちは、自分のことしか考えないから分からないのだろうが、彼らは、守るべきものがあるから、警察には言わなかったんだ。つまりは、彼らとすれば、守るべきもののためには、どんなに金を使ってでも、災いを排除しようとするはずさ。しかも、彼らにも組織のようなものがバックにはいるということさ。それも、元々の大きな組織というわけではない、いわゆる親衛隊による警察のような組織といえばいいのかな? そういう意味では、本当に何をするか分からない連中で、それこそ、人の命なんか、どうでもいいと思っているかも知れないな」
というのであった。
それを聞いたバカップルは、完全にビビっているようで、急に体を震わせた。
「そんな……。じゃあ、俺たちはどうなるっていうんだ?」
と、やっと自分たちの立場に気づいたのか?
「だから、お前たちに依頼した連中は、お前たちを野に放ったのさ。自分たちが手を下さなくても、どこかの誰かが、お前たちを葬ってくれるってな」
というと、もう完全にべそを掻いて、
「助けてくれ。俺たちは、死にたくない」
という。
「じゃあ、黒幕の正体をいうんだな。そうすれば、俺たちの組織で守ってやる。というか、組織に入れてやらないまでもない」
というと、二人は、
「ああ、そうしてください。相手の組織というか首領は、実はここの、帝王学の先生として君臨している茨木先生という人と、次男の幸隆という男です」
と白状した。
そのことは、自分の組織の調査で分かっていたことだったので、もう、これで疑いようのない事実になった。
これで、勉を始め、幸隆までもが失脚させることは容易になった。先代に話をすると、
「しょうがない」
ということで、山中家の天下もここまでだということを悟ったようであった。
小平は、他の会社に勤めさせていた自分の息子をこっちに引っ張ってきて、社長に据えた。
元々、参謀となるべく帝王学は学んでいたので、融通の利く息子は、すぐに順応したのだった。
そして、小平家が山中家を引き継ぐ形で、立場は逆転した。
幸隆の組織は、そのまま小平に吸収され、もう勉も幸隆も力を持っていない。
茨木先生は、やくざの組織に入れられることになり、それが制裁となった。完全に、小平家の
「一人勝ち」
だったのだ。
それを思うと、この事件というのが、本当に偶然だったのかと、客観的な人間にしか感じることができないほど、実に巧妙だったといえるのではないだろうか?
真相は分からない。ただ、小平修平が、ほくそえんでいるというのは、事実だったのである……。
( 完 )
一人勝ち 森本 晃次 @kakku
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