第7話 成敗

 それを思うと、女は借金取りに追われる形で、家族にも借金がバレ、さらに、会社にまで押し掛けてこられると、会社にもいられなくなる。

 そうなると、進む道は二つに一つだった。

「この世を儚んで、自らの命を断つ」

 あるいは、

「風俗嬢となって、身体を売ることで、借金を返しながら、ホストにも通うことを続けるか?」

 という方法であった。

 自殺をする人も少なくはないだろうが、それよりも、風俗に入る方が多いかも知れない。

 風俗というのも、昔のように、重苦しい雰囲気でもなく、

「今は結構楽しんでやっている嬢もいる」

 という話を聞かされたことがあった。

「何が、どう楽しいのか?」

 というのは、やってみないと分からない。

 ただ、

「自分が身を売っている」

 という感情になると、どんどん深いところの沼に嵌っていくようで、気持ちは下降線を描きだけだった。

 しかし、最近では、お店の方も明るい雰囲気であったり、ネットやスマホの普及で、ホームページから、いろいろな情報を得ることもできるようになってきた。

「写メ日記」

 などというものがあり、そこで嬢が、その日にあったことを日記のように書いてみたり、来てくれた客に対して、

「お礼日記」

 を書くことによって、客の方も、

「お金を使って、ただ欲望を満たしただけではない」

 と思うことで、

「またこの子に通おう」

 と思うようになるのだろう。

 客の方が、疑似恋愛だといっても、

「また来てくださいね」

 などと書いてくれているのを見ると、嬉しくなるのも無理はない。

 男性は女性と違って、行為の絶頂に達すると、しばらくは、放心状態のようなことになったりする。一種の、

「賢者モード」

 と言われるものである。

 これは、昔から言われるように、

「果てた後、男が虚脱状態になり、女との接触すら気持ち悪い気分になることがある」

 というもので、一種の罪悪感のようなものに襲われるというものであった。

 つまり、

「お金で女を買う」

 という行為に虚脱感が伴ったことで、身体を動かすことができなくなるような感覚だといってもいいだろう。

 しかし、今はSNSの発達などで、写メ日記であったり、ツイッターなどがあることで、普段であれば、風俗嬢と、お金を払ってお店の中で二人きりにならなければ、

「接点はまったくない」

 というのが今までであった。

 しかし、ツイッターとなると、もちろん、会うわけではないが、話をすることで、

「繋がっている」

 という感情を持つことができる。

 それは、その思いが自分たちの間で、まるで、

「疑似恋愛だと分かっていても、繋がれている」

 ということに、喜びを感じていることだろう。

 その喜びを感じながら、男はまた本指名という形でのリピートを行う。それによって、嬢たちは、アイドルでいえば、自分のファンを獲得したという感覚になるのだろう。

 嬢によっては、本指名の客を、どのように感じているかさまざまではないだろうか?

「ただの、本指名の一人」

 ということで、いちいち、一人一人を考えない人、あるいは、

「職業や名前までしっかり覚えていて、少しでも、恋人気分を味わってもらいたい」

 と考える、献身的な女の子もいるだろう。

 それは、彼女たちが、

「どのようないきさつから、風俗嬢になった」

 ということとは関係はない。

 要するに、彼女たちの性格だというだけのことである。

 借金から風俗に来る女の子は、自分の借金はもちろんのこと、家族の借金で、仕方なく働く子もいるかも知れない。

「一番気の毒」

 といってもいいだろうが、彼女たちの方が、意外と客にちゃんと接しているのかも知れない。

 もちろん、個人差は様々なのだろうが、客とすれば、

「そうであってほしい」

 いや、

「そうでないと、間違いだ」

 と、風俗嬢を本当に自分のアイドルとして見ている男は特にそうだろう。

 一生懸命に働いた中で通ってくる男が多いだろうから、余計にそうなのかも知れない。

 ホストに狂った女のように、借金をしてまで、風俗に通う男の数は圧倒的に少ないだろう。

 男の場合は、借金をしてそれを払うために、風俗で働くなどということはできないからだ。

 男もそれを分かっているので、そこまではしない。

「オトコと女、果たしてどちらがマシなんだろうか?」

 と思わず考えてしまうことになるのだった。

 さて、借金を何とか返した女の子でも、そのまま風俗を続ける人もいる。

 中には、

「これは私の天職だ」

 と思う人もいるだろう。

 風俗で、男性と疑似恋愛をした後、ホストでお気に入りの男性に癒される。

 嫌な言い方をすれば、

「お金というのは、右から左だ」

 といってもいいだろう。

 それを思うと、

「風俗業界において、目的は金であるが、金だけを追いかけていては、病んでしまう」

 ということになるだろう。

「癒し」

 であったり、

「愛されているという証」

 のようなものがなければ、どうしようもない。

 漠然としてはいるが、その考えに間違いはなく、

「風俗業界がすたれずにもっているのは、そのような流れがお金にしても、人間にしてもあるからではないか?」

 と言っている人もいる。

 それこそ、生き物における。

「生態系」

 というものであり、それが一つの一角が崩れでもすると、一気に、屋台骨が崩れてしまう。

 それを思うと、

「余計なことをして、崩すことを思えば、伝統なるものを守っていくだけで、保たれる屋台骨もある」

 ということで、

「世の中の縮図が、ここにはあるんだ」

 ということになるのかも知れない。

 それを考えると、

「風俗というのは、よほど、深入りしないようにするか?」

 ということなのか、それとも、

「流れがあって、そこにうまく乗っていくことなのではないか?」

 と考えるが、その二つは、そもそも、

「風俗業界の内と外」

 という立場から見たものではないかと思うのだった。

 もう一つは、これは、聴いた話なので、どこまで信憑性があるのか分からない。

「風俗嬢が、ホストに嵌る」

 というパターンだが、借金から風俗嬢になった人が癒しを求めるというパターン以外に、風俗嬢をしていて、精神的な疲労から、

「癒しを求める」

 ということで、考えられるのは、

「人気がある風俗嬢を、ホスト狂いをさせることで、陥れよう」

 という考えを持っている人がいるということだ。

 何もホストに嵌ったからといって、中には、

「だから、お仕事頑張る」

 という健気な人もいるだろう。

 しかし、相手のホストからすれば、彼女だって、

「ただの金づるにしか過ぎない」

 と思っているとすれば、そのギャップはすごいだろう。

 特にリピーターの多い女の子などは、まるで自分がアイドルのように好かれていて、

「私が尽くせば、男性は皆私のことを好きになってくれるんだ」

 と、単純に思っている子は、ホストに対しても思っているだろう。

 しかも、ホストは枕営業で、それくらいのことは平気でやる。お金のためなら、どんなブサイクな女に対してもお世辞を言って、相手をその気にさせるのがプロだと思っているのだ。

 つまり、女を道具としてしか思っていない連中が多いということだ。

 もちろん、皆が皆などとは言わない。

 特に、Vシネマなどでやっているホストが、あれが普通なのか、それとも映像のための虚空なのかということは分からない。

 少なくとも、

「火のない所に煙は立たぬ」

 というではないか。

 当然のごとく、誰もが分かっているように、そんな連中が多いということだ。

 だから、女が借金をする理由として、他には、

「ギャンブルが辞められない」

「買い物に嵌ってしまう」

 などという漠然としたものに対して、

「ホスト狂い」

 という特定の商売が原因として挙げられるのは、それだけ信憑性が高いからだろう。

 しかし、前述のように、SNSなどが発達してきたことで、女の子同士のネットでの交流や、実際に会って、

「同業者でしか分からないことを、呟き合ったりする仲であれば、そんな陥れるようなこともないのではないか?」

 と思われる。

 しかし、逆に、仲がよくなったとはいえ、別の店だとはいえ、どちらが人気があるか、あるいは、稼いでいるかなどということは、話をしていても分かるし、客のためと、キャストのやる気向上ということからなのか、地域においての、風俗サイトにおける、

「選手権」

 であったり、

「ランキング」

 などという余計なものが発表されたりする。

 仲良くなった人が、自分より上だったら、どうだろう?

 最初はいいかも知れないが、そのうちに、

「この人に見下されるかも知れない」

 と感じるようになると、話が通じなくなっても致し方のないことなにのかも知れない。

 相手が、

「そんなことないわよ。ずっとお友達じゃない」

 と言われれば言われるほど、相手にいやらしいような落ち着きが感じられ、無性に腹が立ってくるというものではないだろうか。

 そう考えると、

「もう、何を言っても、相手をしてもらえない」

 ということになり、余計に二人の仲が最悪になってしまうだろう。

「片方が片方を恨む」

 ということになると、恨まれた方も恨み返す。

 そうなってくると、最期には、

「半永久的な負のスパイラル」

 が待っているのである。

 もっとも、ここまでなるというのは、ごくまれなことで、信憑性をどこまで感じればいいのか難しいが、結局は、昔の特撮であったということで、今でも話題になっている、

「血を吐きながら続けるマラソン」

 ということになるのだろう。

 片方が、

「相手よりも上を目指そうとすると、相手は、もっと強力なものを作ろうとする。その繰り返しの堂々巡りのことを、血を吐きながら続けるマラソンだという」

 ということである。

 これは、戦後における、アメリカとソ連の、

「核開発競争」

 を皮肉ったものだが、子供が対象だったとすれば、この言葉は、あまりにも重たすぎるといえるのではないだろうか?

 風俗業愛においても、嫉妬ややっかみが渦巻いているというのは、実際にあることだろう。

 特に、店や業界が、女の子のスキルアップを考え、

「客をいかに満足させ、風俗離れをさせないようにするか?」

 というのは、大きな問題であった。

 風俗というのは、基本的には

「風俗営業法」

 というものに守られている。

 いや、縛られていると考える人もいるだろう。

 ソープなどは、新しく、この業界に進出してくること、あるいは、新規で開店することは許されていない。だから、老朽化を理由としない限り、店舗を綺麗に改装することもできなかったりする。だから、廃業した空き店舗に、他の店舗が入る場合も、内装をほとんど変えることもなく使用しなければいけないという。

 そうでもないと、

「新規店舗」

 として見なされ、当局から、調査が入ることになり、下手をすると、数日間の営業停止を求められるかも知れない。

 家賃を払わないといけないし、キャストに給料も払わなければいけない。数日間の営業停止でも、致命的だったりするのだ。

 そういう意味で、

「世界的なパンデミック」

 によって、戒厳令を敷くことのできない状態で、

「緊急事態宣言」

 なる、名前だけは仰々しいが、実際には、すべてが、自治体からの要請でしかなく、強制力を伴わないものがあるのだが、それは、憲法で保障する、

「基本的人権の尊重」

 が一番にあるからだ。

 いくら緊急事態だからといって、国民の自由を阻害することは許されないというわけだ。

 だが、これは考え方だが、キチンと守っている人からみれば、命令を無視している連中は、困ったもので、

「あんな連中がいるから、同業者というだけでキチンと守っている俺たちまで白い目で見られるんだ」

 と思うことになる。

 そういう意味では、全員が平等ということを考え、

「法の下の平等」

 として、自由を制限するくらい、仕方のないことではないかという意見もあるだろう。

 それを考えると、国民に一部の強制力を持つ方が、平等という観点からいけば、正しいのではないのだろうか?

 だが、そんな問題をいかに解決するかということで、結局、

「自分の身は、自分で守る」

 つまりは、金のある連中は、その金で、用心棒を雇ったり、政府を買収したりできるという考えだ。

 そうでもしないと、自分の身を守れない。それが犯罪に繋がるのだとしても、彼らからすれば、

「自治体や政府が動かないから、俺たちが自分でやっているだけだ」

 ということになるのだ。

 それを思うと、反政府勢力は過激ではあるが、

「今の時代が生み出したものであり、必要悪の一つなのではないか?」

 と思う。

 もっといえば、

「必要悪だと思わないと、その存在を否定しなければいけなくなり、結局、政府や自治体が悪いのだということになり、ブーメランが飛んでくることになる」

 ということではないだろうか?

 そんな緊急事態宣言下においても、風俗店は店を閉めるわけにもいかず、普通に営業していた。

 ただ、考えてみれば、あの時は、パチンコ屋がやり玉にあがり、空いている店を、

「ルール違反だ」

 といって、SNSなどでは、徹底的に攻撃していた。

 最初は、自治体も、

「店を閉めなければ、店の名前を公表する」

 ということで、それでも閉めなかったので、公表に踏み切ると、何とまったくの逆効果で、朝の開店時間は、

「長蛇の列」

 ができあがっていた。

 理由は簡単なことで、

「ギャンブル依存症の人たちが、開いている店を求めているのに、その要望に応えるかのように店名を公表すれば、それは当然、人が集まってくるのは当たり前」

 というもので、

「他府県ナンバー」

 もたくさんあったという。

 しかも、大阪の店に、下関から来たという人もいたくらいで、依存症の人は、本当に、

「何があっても、やってくる」

 ということなのだろう。

「これが世の中というものだ」

 と、店の人は、生き残りをかけて必死だったのだが、ここまで盛況になるとは、さすがに思ってもいなかったであろう。

 要するに、

「制裁を加えようとしてやったことであっても、結果として、考えと真逆の事態になることが往々にしてある」

 ということだ。

 それは、状況を見誤ったり、自分たちの知らない世界を勉強もせずに、自分たちの尺度で考えたりすることでなるに違いないのだった。

 それを思うと、逆に、

「美人局をやっている連中も、想像もしていなかった落とし穴があるに違いない」

 ということだった。

 実は、小平が考えていることは、実に巧妙なことであった。

 まずは、相手の二人の所在を見つけ、

「あたかも自分たちが、正体不明の誰かから脅迫を受けている」

 というような気にさせることであった。

 命に別状ないまでに、攻撃を受けたり、

「もちろん、金にものをいくらでも言わせられるのだから、買収もできるだろうし、防犯カメラだっていくらでも、どうにでもできるというものだ」

 ということで、バカップルを追い詰める。

 さらに、やつらに対して、

「被害者の情報を引き出させる」

 ということを目標にしていた。

 やつらは、当然、被害者の目録を持っていることだろう。それをいかに引き出させるかということは、普通に人間が脅迫することであれば、やつらは、そのまま資料を燃やしてしまう可能性もある。

 それに、最初に警察に駆け込まれると、厄介なことになるのは必至だったのだ。

 となると、少し脅かす形で、幼稚ではあるが、幽霊を信じさせるかのようにすれば、やつらも捨てるのが怖くなるだろうし、身動きが取れないということで、一石二鳥だった。

 そういう心理的な攻撃は、小平の専売特許だといってもいいだろう。

「はい、申し訳ありませんでした」

 と、やつらは、その資料を渡すだろう。

 ただ、それがコピーであっても関係ないのだった。

 こちらの目的は、

「被害者がどこの誰なのか?」

 ということさえ分かればいいのだ。

「どうせ、金を持った相手に違いない」

 と思い、

「だからこそ、被害者を定めることができたのだろうが、復讐、いや制裁を加えるにおいて、同じように、金を持っているということが、こっちにとっても、都合がいいということを、今に思い知ることになるのだ」

 ということであった。

 小平の計画は、

「被害者連中に、今回のことを引き起こしたのが誰なのか?」

 ということを教えることだった。

 被害者の方も黙って従っていたのは、犯人グループがどこの誰なのかが分からないから、どうしようもなかったわけで、正体が分かり、しかも、バックに何もついていないということが分かれば、もうこっちのものだと被害者の方も分かったことだろう。

 こうなってしまうと、被害者側からの、

「バトルロイヤル」

 の開始であった。

「バカップルたちは、金を持っている連中は、必死でスキャンダルを隠したがっているということで、脅迫をしたのだろうが、逆に被害者側からすれば、金を持っていて、相手が確定し、あきらかにこちらが強いということが分かれば、何をするか分からない」

 ということである。

 被害者側が、

「金を渡してでも、バカップルのいうことを聞いたのは、金で解決できることであれば、金で解決するということであり、それだけ、彼らには守らなければならないものがあるのだ」

 ということである。

 そうなると、

「今までの恨みも込めて、やつらを殺さないまでも、半殺しにするくらいのことは、否めない」

 と思うだろう。

 だが、被害者は複数いるわけで、

「俺たち以外に復讐した人がいるからといって、俺たちの恨みが消えたわけではない」

 と思うだろう。

 つまり、

「他の人が痛めつけても、すぐに完治して病院から出てくる。そこを今度は俺たちが襲う」

 ということになり、実は他にも狙っている連中がたくさんいることになる。

 彼らが本当の自分たちがしたことに対して恐怖におののくのは、退院してきてからのことになるだろう。

「偶然がこんなに続くわけはない」

 ということで、恐れおののいて、三度目に痛い目に遭うと、気が狂わんばかりになり、ひょっとすると、警察に助けを求めに、自首してくるかも知れない。

 とはいえ、美人局くらいで、拘留することもないだろう。

 何と言っても、被害届が出ていれば彼らに対して、訴訟の問題が起こるわけで、脅迫された方も、

「被害届を出せないから、金を出した」

 ということなので、どうすることもできないといってもいい。

 被害届が出ていない以上、いくら警察に、

「助けてくれ」

 といっても、警察も深くは調べないだろう。

 何しろ証拠もないし、人情的に。

「こんな腐った連中のいうことを聞くのもな」

 というのが心情ではないだろうか?

 それを思うと、せっかく駆け込んだ警察に突き放され、どうすることもできない。

 これが、小平の、

「復讐」

 だったのだ。

 冷徹といえば冷徹だが、自業自得だということに変わりはないのだ。

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