第88話 底なし沼
ミチャが部屋を出て行った後、ルノルノはすぐに目を覚ました。
(ミチャ……?)
起き上がってミチャを探す。彼女の姿はどこにも見当たらなかった。
ルノルノの心を不安が襲う。
夜の闇は嫌いだ。一人草原をさまよった恐怖を思い出す。
ミチャは毎日背中から自分を抱きしめて寝てくれた。
スキンシップは得意ではない。自分の経験してきたスキンシップとはとても暴力的で、性欲を満たすために行われるものだからだ。
だがミチャは違う。優しく、柔らかで、温かい。このスキンシップならいつまでも受け止めていられる。
最近時々だがふと思うことがある。
最初はミチャがおかしいことを言っているように思えた。でも一生懸命自分の話は聞いてくれるし、色々アドバイスもしてくれる。時々意地悪な質問をして来る時もあるけれど、自分のことを全面的に信頼してくれているように見える。
ふと草原の陽だまりでミアリナと過ごした日々に重なる。なぜだろう。ミチャの方が間違っているはずなのに……。
だからミチャがいないと、急に不安になる。
一人の時は寂しい。首飾りの物言わぬ家族に語りかけることが精一杯になる。こんな夜に一人にされると……怖い。
ルノルノは廊下に出た。
(ミチャ、どこ……?)
一度不安に取り憑かれると、それは増幅されていく。ミチャの姿を探して玄関ホールのところまで来た。
「おや、ルノルノではないか」
声がした。そこにいたのはクロブだった。クロブはランプを掲げ、ルノルノの顔を照らした。
「クロブ、様」
「どうしたのかね?こんな夜更けに」
「ミチャ、いない……」
「ミチャ? 見てないねぇ。私はお客人のお見送りをしていただけなんでね」
クロブはルノルノの体を舐めるように見た。
「まぁ、こんなところで立ち話もなんだし、少し行こうか」
ルノルノの肩を抱いて、クロブは歩き始めた。
やってきたのは食堂だった。暗く、誰もいない。
クロブは食堂の燭台に灯を灯し、少し明るくした。
「一人にされて、寂しくなって歩いていたというところかな?」
ルノルノに席をすすめると、クロブもその隣に座り、彼女の太ももに手を伸ばした。そしてゆっくりと撫で回し始め、陰部近くにそっと触れた。
「武器庫でしたのが最後だったな。あれ以来忘れられなくてね。ずっとミチャが目を光らせていたから近づけなかったが……今日会えたのは運命かもしれんな」
急に立ち上がると、ルノルノの体を抱き上げ、テーブルの上に座らせた。
「脱がせるぞ」
ルノルノは抵抗出来なかった。一瞬抵抗しなければ、という感覚には囚われた。しかし何かがそれを押し止める。
足が泥で出来た底なし沼に捉われて、沈んでいく感じがした。
「今度から私がお前のご主人様になってやろうか? ウルクスが死んで毎晩寂しいだろう」
ルノルノの頭の中がざわつく。
(そうウルクス様は死んだ……)
彼に代わるご主人様なんているのだろうか。
クロブ様がご主人様……それもいいかもしれない。
クロブ様なら正しい奴隷の姿に導いてくれるかもしれない。
彼に全てを捧げ、彼と子作りをする。
それが奴隷の正しい姿……。
……ほんとに?
分からない。
自分を作っている一つ一つのものが零れ落ちて、空っぽの容器になっていくみたい。
嫌だ……何かで私を満たして……。
頭の中に、胸の中に温かい記憶が蘇る。
私を優しく包んで、温めてくれて、頭を撫でてくれる。
お姉ちゃんは私に色んなもので満たしてくれる。
(ルノルノは本当に甘えん坊ね)
お姉ちゃん……。助けて、お姉ちゃん……。
しかし姉は串刺しになっていく。
冷たい死体となって自分を見下ろしている。
心の中で叫ぶ。
いやだ! いやだ! いやだ! いやだ!
助けて! 誰か助けて! 私を満たして!
助けて……。
助けてよ……。
…………ミチャ…………。
ルノルノはここでようやく抵抗した。体を捩り、逃げようとした。
その時、クロブの平手がルノルノの頬を張った。
「今更じたばたするな! 跪け! 私に忠誠を誓え!」
ルノルノは震えながらテーブルを下り、クロブの前に跪いた。言葉の意味が分かった訳ではない。ただ、平手で打たれたことでルノルノの意識が一気にその底なし沼に引き込まれるように呑まれたのだ。
光が閉ざされ、闇の中へと堕ちていく。
『申し訳ございません。ご主人様には、二度と抵抗はいたしません……』
「素直になったか。よし、じゃあしゃぶらせてやろう。丁寧にしゃぶれよ」
ルノルノの前にそそり立った牡の怒張を突き出す。ルノルノはウルクスに仕込まれたように、それをゆっくりと小さな口の中へ収めた。
「やっぱりうまいな。なかなかいい口をしている。性処理にはもってこいだ。……そうだな、今度ミチャの前でお前との交わりを見せつけてやろう。そうすればあいつも少しは生意気を言わなくなるだろう」
腰をゆっくりと動かし、ルノルノの口内をたっぷりと犯す。俄かに射精欲が高まる。
「まずは口で受け止めてもらおうか」
腰をぐっと少し深めに押し入れる。ルノルノが軽く噎せると同時に、クロブは大量の子種を含んだ男の白汁が放出されるのを自覚した。激しい射精感と征服感がクロブの嗜虐心をそそる。
「やはりお前は私のものになるべきだな」
クロブはルノルノを膝の上に座らせると、今度はその花弁を指先で弄り始めた。
おや、と気付く。感触が違う。吸い付くような、まとわりつくような、未熟な感触……。
「そうか、お前、ウルクスを腹上死させたというから破瓜したものと思っていたが……」
ウルクスはこいつを綺麗なまま残して逝ったのだ。これはいい。これからじっくり堪能して、今からこの処女をいただくとしよう……。
クロブは思わぬ戦利品にほくそ笑んだ。
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