第44話 心の拠り所
部屋に戻ってしばらくしていると、ルノルノが馬場から戻って来た。
『ご飯、先に行っちゃったんだ』
『うん、起きたのが遅かったからねー。先に食べちゃったわ。ルノルノも行っておいでよ』
『……うん』
ルノルノはとても寂しい気持ちになった。
一人で食べるご飯はこんなに辛い。
ある程度聞き取れる言葉も増えたとは言え、自分から話せる訳ではないし、会話は出来ない。自然な速度で聞くトゥルグ語は未だに分からない。
結局ルノルノは孤独だった。
こんな時にミチャがいてくれたら、と思う。
いつも明るくて、気を遣って喋ってくれて、笑いかけてくれるミチャはルノルノにとって大きな支えになっていた。
確かにラーマもいるが、言葉は分からないし、何より立場も違う。彼女は自由人、自分は奴隷だ。本当の意味での支えは同じ奴隷であるミチャにおいて他はない。雰囲気は違うが姉の面影をミチャに重ねていた。
食べ終わって部屋に戻るとミチャはいなかった。この時間はいつも一緒に馬場に向かう。しかし今日は何だか避けられている気がした。
何か悪いことをしてしまったのだろうか。彼女の機嫌を損ねてしまったのだろうか。仲直り出来るのだろうか。ミチャがいないとこんなに心細い。
ルノルノは溜息をつくと、仕方なく一人で馬場に向かった。
その頃、ミチャはシュガルの部屋にいた。今日はラーマが伯父のラゼルの元に行っている。
「ルノルノの方はいいのか?」
ミチャはシュガルとラーマがいつも一緒に寝ているベッドに裸で横たわっている。シーツから溢れるラーマの甘い香りがミチャの優越感を刺激していた。
「まぁ、今から馬の調教に行く時間ですから。彼女の得意分野ですし、放っておいても大丈夫でしょう」
シュガルはミチャの上にのしかかる。シュガルはミチャの首筋に舌を這わせた。
「旦那……様……」
首筋や耳をねっとりと舐められるとミチャの気持ちも昂って来る。ミチャはシュガルの首に腕を回し、思わず口づけをせがんだ。
「おっと、それは駄目だ」
ミチャの体から離れて、シュガルはそう言った。
この国の人々にとって口づけは神聖な行為とみなす習慣がある。本当に愛し合っていなければ口づけることはよくないと教義にも明記されている。
ただこれは倫理規範であって罰則ではないので、口づけた者同士が将来的に別れたとしても罰せられることはない。
ただアルファーン人の意識としては口づけた以上、当然結婚するだろうという認識になる。だからミチャと結婚までは考えていないシュガルの反応は当然と言えた。
シュガルは興醒めしたという顔で服を着ようとした。
「あ……も、申し訳ございません! 調子に乗り過ぎました……」
ミチャはベッドから降りてシュガルの前に跪いた。
「どんな罰でも受けますので、お許しください……」
「顔を上げろ」
ミチャは怯えながら顔を上げた。
シュガルは服を着るのを止めてベッドサイドに座り、跪くミチャの顎に指を当てて顔を上げさせた。
「口づけは許さんが、俺のものに口づけることは許してやる。寛大な主人に感謝しろ」
「はい、旦那様……」
ミチャはシュガルの前に跪いたまま奉仕を始めた。これも将来の自分のため。贅沢で安穏とした暮らしのためなのだ。
かなりの時間が経過した。そろそろ苦しい。ミチャは涙目になり始めた時、シュガルがぽんぽんとミチャの頭を軽く叩いた。
「もういいぞ。これに懲りたら口づけようとは思わんことだ」
「はい、申し訳ございません……
シュガルはにやりと笑ってこの従順な女奴隷を抱き上げ、ベッドに運ぶ。そしてさっきとは打って変わって優しい声でミチャに囁きかけた。
「そんなに焦らなくても、必ずお前には俺の子種をやる。心配するな。自由人にしてやるし、財産も分けてやる。お前のためだけの家も用意してやるつもりだ。約束だ」
この厳しさから優しさに変わる瞬間、ミチャは
「はい……あたし、もう、旦那様から離れらんないです……」
「離れる気あったのか?」
シュガルが冗談っぽく言うと、ミチャは首を横に振った。
「ある訳ありません……あたしは旦那様の玩具……旦那様の好きなだけ、あたしの体で遊んでください……」
シュガルの熱の籠った愛撫が始まる。
寝室にはミチャのよがり声が響いた。
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