第35話 小悪魔の囁き

 問題はその夫となってくれる「誰か」をどうやって探すかである。


 抱いてみたはいいが「やっぱり違った」では許されない。


 ふと顔をあげる。


 いちごを頬張るルノルノと食後のコーヒーを嗜んでいるウルクス。


 この二人をくっつけるのはどうだろう……?


 ウルクスの性癖を満たしてくれる少女などまずいない。


 そういう意味ではルノルノはお似合いのように思えた。



「ウルクスは、ルノルノのことどう思ってるの?」



「突然、何の話だ」



「いや、もしかしたらウルクスはこの子が欲しいんじゃないかなって思って」



 この男がしたいのは力のない少女を蹂躙し、服従を強要することだ。


 その点、ルノルノは無垢にして無知そうである。上手く誘導をすればウルクスに服従させることが出来るような気がする。


 ミチャは足を伸ばして、ウルクスの股間に滑り込ませた。



「あんたの性癖って特殊だからさ。実行しようものなら、鞭打ち刑ものじゃん? でもこの子、純粋だから、上手くやればあんたの従順な牝犬に出来るんじゃないかな」



 さわさわと股間を足先で撫で、ウルクスを誘惑するように囁いた。



「……それでもシュガル様のものを奪うような真似は出来ん」



「素直じゃないなぁ……体は正直なのに」



 ミチャは足先に感じる硬いものをそっと撫で続け、ウルクスの欲望の炎に油を少しずつ注いでいく。



「結婚して、一生あんたの牝犬にしてやればいいじゃん。あんたという奴隷に従順に従う奴隷妻にすればいいじゃん。この子ならそういう最下層の女になってくれるんじゃないかな。奴隷の奴隷。いい響きじゃん」



 ウルクスが抱くのは少女に対する甘い愛情ではなく猛々しい獣欲。聞きたいのは愛の言葉ではなく、隷属の言葉。


 だがミチャにとってはどっちでも良い。ルノルノがウルクスのものになってしまえばそれでいいのだ。



「奴隷の奴隷か」



「そういうこと」



 要はシュガルの愛人にならないようにしてくれればいい。


 アルシャハン教義において、主人が死んだ場合の財産分与の割合は細かく規定されており、遺産の一割は税金として取られるが、残りは妻、子、親しい友人、主人が死ぬことによって自由人となった元奴隷達に分配されることになっている。


 この親しい友人というのは二人まで指定でき、しばしば愛人をも含む。


 そしてその計算で行くと、シュガルが亡くなった場合、彼の遺産の二割は愛人に回ってくるはずなのだ。


 この二割はラーマと二人で山分けになるのでミチャの取り分は一割。シュガルの遺産の一割となればかなりの額になる。


 もちろんこれは彼が死んでしまったらの話で、生きている間も愛人として何かにつけて分け与えてもらえるはずだ。


 いずれにしても贅沢な暮らしは保証される。


 そんなことだからルノルノが愛人になってしまうのは困る。誰か一人は貰えなくなるからだ。


 それに加え、ルノルノは驚くぐらい美少女だ。貰えない誰かが、ミチャではないという保証はない。


 ちなみに三人目以降の愛人は「親しい友人」としての遺産は貰えなくても、条件によっては「解放奴隷」としての遺産が貰えることもある。しかしそうなれば他の奴隷と分けることになり、四十人ぐらい雇っているシュガルの下では微々たるものとなる。


 だからルノルノは邪魔なのだ。退場してもらうには、ウルクスの奴隷妻になってもらうしかない。


 そのためにはまず色々教え込む必要がある。


 純粋無垢な心を汚すように、男と女の欲望を教え、性を教え、ウルクスの欲望に応えられる素地を作るのだ。



「正直言って、これはチャンスだと思うよ。なかなかあんたの性癖を満たす子なんていないからね。何なら手伝ってもいいよ」



 硬いものの先を足先で押さえる。



「お前に利はあるのか?」



 さすがにシュガルの財産とは言えない。ミチャはさらっと誤魔化した。



「この子を調教しているところ、あたしにも見せてよ。あんたみたいな猛々しい男がこの子をじっくり可愛がってるところが見たい。これが条件」



「そんなことでいいのか?」



「あたしも奴隷会で色んなもの見てるのよ? そろそろ刺激的なオカズが欲しいのよ」



 半分は本気だ。この無垢で可憐な美少女が猛々しい獣のような男に犯され、快楽で喘ぐ姿を見てみたい。それはきっとそそるものに違いない。



「考えておこう」



「言っとくけど、他の誰かに先を越されることもあり得るんだからね。考えてる暇はないわよ」



「その時はその時だ」



 ウルクスはこの話はこれで終わりと言わんばかりに立ち上がった。


 ミチャは足を引っ込め、去っていくウルクスに手を振って見送った。


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