第40話【昼食】あなたの好きな味
結論から言うと父の日のプレゼントと美咲さんへのプレゼントの品目は決まった。
ただ、俺たちが行った日本一の売り上げを誇る百貨店はやはり高校生のお財布事情からすると厳しいものがあるので、購入は別のお店にしようということになった。
「当たり前ですが百貨店は高級品が多いですね」
「でも、一度にいろんなものが見れたから比較するのにはよかったな」
百貨店での下見を終える頃に自分のお腹の音にはっとして時間を確認するとお昼の時間はだいぶ過ぎていた。二人でプレゼントの品は何がいいだろうと話していたら時間があっという間に過ぎてしまっていたのでちょっと驚いた。
「それにしても、今日は四元君のお誕生日なのにお昼ご飯はラーメンでいいのですか。一応、お母さんたちからは二人で美味しいものを食べてもいいからと言われているのですが」
「ああ、夕食に美咲さんが美味しいものを作ってくれるって言っていたから昼はこのくらいがいい」
そう、俺たちは今、昼過ぎとはいえ、まだ行列のできているラーメン屋の列に並んでいるところだ。
七瀬さんからお昼どうしますかと聞かれた時にラーメンがいいと言った時にはびっくりした顔をしていた。
仮にこれが俺の初めてのデートならもう少し見栄を張ったかもしれない。
しかし、今日はデートではなく、兄と妹が二人で兄の誕生日のプレゼントを買いに来ているだけだ。ここで変にデートっぽい雰囲気を出してはいけない。そのことは昨夜のうちに決めていたことだ。
「たぶんですが、私、ラーメン屋さんは初めてかもしれないです。中華料理のお店でラーメンを食べたことはあるのですが、ラーメン屋さんでラーメンを食べたことがないと思います」
「マジか!? もしかしてラーメン苦手だったりする」
その可能性は考えていなかった。当然だが、このお店は中華料理店ではないので、スープの種類はいくつかあるが、メニューにチャーハンはない。
「そんなことはないです。ラーメンは好きなのですが、野菜が山のようになっているラーメンはさすがに食べきれないと思います。このお店はどういうラーメンですか」
「ここは七瀬さんが思っているような野菜が山になっていたり、脂が多めの豚骨醤油スープのお店じゃないからそこは安心して。このお店のおすすめはあっさり系の潮そばだから食べやすいと思う」
「私、あっさり系好きなので楽しみです」
とりあえず、ラーメン好きということでよかった。
普段から脂増し、ニンニク増しのラーメンが好きだと公言していればどの店でも気にしなかったが、鳥嶋が言うところの妹にしたいランキングNO.1の天使様にはあっさり系のラーメンを選ぶ方が安牌だと考えたが正解だったようだ。
お店の回転は早く暗黒面について話をしていたらあっという間に券売機の前まで順番が回ってきた。券売機に表示されているラーメンのメニューは主に四つで潮そば、醬油そば、鶏白湯そば、つけそばだ。
「やっぱり、ここは四元君おすすめの潮そばにしようかと思います」
「あくまで俺のおすすめだから、醬油が好きならそっちでもいいと思うけど。醤油もあっさりしているから」
「いいんです。今日はもう潮そばの気分なんです」
そう言うと、七瀬さんは券売機の潮そばのボタンを押した。
七瀬さんって意外と強情なところがあるよなと思いながら俺はトッピングたっぷりの特製潮そばのボタンを押した。
店員さんに食券を渡して、案内されたカウンター席に並んで座ったところで、七瀬さんがこちら向く。
「四元君のおすすめってことは、四元君が好きな味ってことじゃないですか。だから、食べてみたいんです」
「言っとくけど、俺は食通とか美食家とかじゃないぞ」
「もう、そーゆーとこですよ。そーゆーとこ」
そーゆーとこってどういうところだよ。相変わらず理不尽な指摘を受ける。
何と返せばいいのかわからない俺はしばらくの沈黙の後、とりあえずセルフサービスのお冷を二人分ついで一つを七瀬さんに渡した。
「ありがとうございます。ところで、今日はお昼を食べた後はどうします」
「とりあえず、そろそろ出来上がっているスマホケースを取りに行って、それからもう一か所行きたい所があるんだよな」
「それではこのあとは四元君が話したようにしましょう。ちなみにもう一か所行きたい所ってどこですか」
「それは……、まあ、あとで話す」
出そうになった言葉をお冷で流しこみ。空になったコップに再びお冷を注いだところで注文したラーメンが運ばれて来た。
これは余談だけど、手で髪を耳に掛け、ふーふーと冷ましながらラーメンを食べる七瀬さんの姿を妙に色っぽく感じてしまったことはここだけの秘密にしておく。ラーメンを食べているだけであの破壊力は本当に反則だ。
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