第35話【呟き】十文字ヶ丘香澄の独り言②(香澄視点)
お風呂上がりの火照った身体を冷ますためにベッドに仰向けで大の字になる。
今日のお菓子作りは楽しかったし、美味しくできたしで最高だったと思う。
おじいちゃんにも食べてもらって、
「ついに香澄がここまで美味しいものを作れるようになるなんて、これでやっと嫁にやっても婿をもらっても大丈夫だわい」
なんて言っていた。
ガトーショコラ一つで大袈裟だ。だいたい今日の作業内容でいうと私の貢献は二割がいいところだろう。鳥嶋シェフは学校の調理実習の時以上にアドバイスしながら調理していたし、クロエちゃんも手際よく作っていた。
それに私は今のところ嫁にいく気も婿をもらう気もない。というよりも彼氏ができてお付き合いというものすらしたことがない。
さすがに高校二年生にもなれば初恋ぐらいは済ませた方がいいのではと思っているところだ。
しかし、自分の胸がときめくような相手がいない。
共学の学校だから異性はたくさんいる。クラスの友達が話題にするかっこいいと言われるような運動部の先輩や可愛らしい後輩もいるが、その人たちを見ても全くときめいたりしない。
もしかしたら、私はまだ出会ったことのないようなタイプの人に惹かれるのかもしれない。
スマホで私が今日撮ったクロエちゃんと鳥嶋君の写真を見る。
クロエちゃんはいろいろな表情で写っているけど、どうしてどれも可愛いのだろう。羨ましい限りだ。
一方、鳥嶋君は……、どうして全部変顔をしているのだろう。もちろん、ずっと変顔で調理をしていたわけではないから私がカメラを向けた時だけ瞬間的に変顔をしているはずだ。カメラを向けられると変顔になる呪いでもかけられているのだろうか。
写真といえば、お菓子を食べた後にクロエちゃんが先日雅紀と一緒に自撮りの練習をした時の写真を見せてくれた。(雅紀にも一応許可はもらった。)
予想はしていたものの雅紀の自撮りは腹がよじれるほど面白かった。
例えるなら金剛力士像をくすぐって無理やり笑わせたような顔で、もし、笑ってはいけない自撮り大会があったら〝全員アウト〟となるようなレベルだ。
でも、その後にクロエちゃんからレクチャーを受けて撮った自撮りはそこそこいい感じになっていたし、最後に撮ったという雅紀の膝の上にクロエちゃんが座っている自撮りはすごく自然な笑顔になっていた。
普段、自然な感じで笑うことがあまりない雅紀が珍しく自然な感じで笑っていた。私の持っているアルバムの中にいる雅紀がそんな風に笑っているものはそんなに多くない。そんな風に笑っている写真がたくさんあるのは、今日、出さなかった一番古い時期のアルバム……、まだ、雅紀がお母さんたちと一緒に暮らしていた頃に撮った写真が収められているアルバムだ。
だから、雅紀とクロエちゃんのツーショット自撮りを見た時に、一緒に暮らし始めて一週間で雅紀の自然な笑顔を引き出せるなんて凄いと思ってちょっと嫉妬した。
ヴーヴー
バイブ音が雅紀からのMINEの新着メッセージを伝えた。
『七瀬さんの体調はもう大丈夫みたい。心配かけたな』
それまで、元気そうだったのに、あの時急に顔色が悪くなったから心配していたけど、大丈夫ということでなによりだ。
スマホの時刻表示に目をやるとあと数時間で日付が変わる。
そろそろ零時ちょうどに雅紀に送るハッピー・バースデー・メッセージでも考えよう。
まったく、あのプレゼントといい、メッセージといい何かと雅紀関連で考えることが多い。
― ― ― ― ― ―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます