第22話【注意】義妹の写真に顔が緩んでます(後編)

「なになに、そんな写真まで持っているの」


 もう、百田から解放されたのか。後ろから甲高い声を発したのは鳥嶋だ。


 香澄よりもずっと面倒な奴に見つかった。香澄は俺と七瀬さんの事情を知っているから、今話している時も七瀬さんの名前を出さず、周りに俺と七瀬さんのことを悟られないようにしてくれていた。これは昨日俺から香澄にお願いしていたことだ。


 しかし、鳥嶋はこっちの事情は知らないし、さっきのことを考えると羨ましいと騒ぐかもしれない。そうなっては俺と七瀬さんの関係が知れ渡ってしまって、俺が穏やかな高校生を送れなくなってしまう。


 ここは多少手荒な方法でも仕方ないか。


 俺はさらに続けてしゃべろうとする鳥嶋の口を塞ぎ、ネクタイの結び目の部分を掴むと、

「鳥嶋君、ちょっとあっちでお話ししようか」


 と言って、ふんっと力強く肩を抱くとそのまま大きな荷物でも運ぶように鳥嶋を教室から連れ出して、人気ひとけのない階段の横の掃除用具が置かれているスペースまで連れて行った。


「こんなところに連れてきてどうするつもり」


「声がでかい。いろいろ事情があるんだからもうちょっと声をおとせ」


 俺は一度周りを確認した。このあたりは人気がないといっても朝の登校時間は廊下には多くの生徒がいる。


「で、あの七瀬さんの写真はどういうこと。今朝も一緒に登校してるし。まさか……」

「まさか……」

「盗撮か?」

「どうして、鳥嶋も香澄もそうなるんだ!」

「四元が静かにって言ったくせに声がでかいな」


 はっとして再び周りを確認する。とりあえず、大丈夫そうだ。


 俺ってそんなに盗撮してそうなキャラなのか。こうも盗撮疑惑を掛けられるとちょっと凹む。


 俺はスマホを取り出しもう一度さっきの七瀬さんの画像を表示させて鳥嶋に見せた。


「よく見ろ。盗撮じゃない。七瀬さんが撮った自撮りだ」


「ん? じゃあ、どうして四元が七瀬さんの自撮りなんか持ってるんだ」


 嘘をつくわけにもいかないし。変に詮索されても困るから俺はかくかくしかじかと俺と七瀬さんの関係について簡単に説明した。


「……うんうん、なるほど。そういうわけか」


 物分かりがいいような返事をしているが、鳥嶋の手は結ばれたままぷるぷるとしている。


「それで、本心は?」

「ちきしょうー。なんて羨ましいんだ。神様はどうしてこうも不公平で、僕に試練を与える」


 膝が折れて崩れ落ちる鳥嶋。


「いや、別に鳥嶋には何も試練なんか与えられてないだろ」


「そんなことはない。僕には幼馴染も彼女もいないのに。四元には十文字ヶ丘さんがいるだけじゃなくて、妹にしたいランキングNO.1の天使様こと七瀬さんと一つ屋根の下で暮らしているなんて……。羨ましい。超羨ましいに決まっているだろ。僕にはそういうバラ色の青春がないんだ。これを試練と言わずして何と言う」


 それが試練だというなら不公平だと訴えられる神様も理不尽だ。それに俺には幼馴染と義妹がいるだけで彼女がいるわけじゃない。


 だいたい、学校では天使様なんて言われているけれど、うちで一緒にいる時の七瀬さんは学校ではやらないようなズボンのチャックが開いているなんていう悪戯や隣を歩いていたら急にデュクシをしてくるようなとても天使様と言われるような人物ではない。


「それが試練かどうかはわからないが、とりあえず、しばらくは俺と七瀬さんのことは口外しないで欲しい。七瀬さんはまだ新しい生活に慣れていないだろうし、俺は今まで通り平穏な生活をしていたい」


「まあ、別に四元と七瀬さんのこと言いふらすつもりはないけど、僕もまぜて欲しいな」


「まぜるって何に?」


 俺が眉間に皺を寄せながら尋ねると鳥嶋はにやり笑って答えた。


「お菓子作り♪」


 ― ― ― ― ― ―

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る