第21話【注意】義妹の写真に顔が緩んでます(前編)

「ほらよ、これでさっきのはチャラな」

「よきよき、雅紀にしてはいい心がけね」


 俺は教室に行く前に自動販売機で買った紙パックのフルーツ牛乳を香澄に渡した。


 昔から香澄はフルーツ牛乳が好きでフルーツ牛乳がある自販機があれば必ずそれを買う。


 俺は背が高いから牛乳が好きだと思われることが多いがそんなことはない。どちらかといえば牛乳は苦手だ。ただ、フルーツ牛乳に苦手意識はない。それはきっと、牛乳のあの匂いがフルーツによって和らげられているからなのと、香澄と一緒にフルーツ牛乳を飲むことが多いからだと思う。


「まあ、香澄のおかげで百田に捕まらなかったからな。月曜の朝から説教されたんじゃ堪らない」


 香澄は俺から受け取ったフルーツ牛乳にストローを刺して早速飲み始めた。


「あー、五臓六腑に染み渡るわ」

「ほんと、それ好きだよな」

「私にとっては一種の麻薬みたいなものね。これがないと落ち着かない」

「中毒者に薬物渡しちまったな」


 俺は自分の鞄の中身を机の中に移してから、一度スマホを確認するとLIMEの新着メッセージが一件。七瀬さんからだ。


 同じ教室にいるのだからわざわざLIMEしなくても直接話したらいいのに。それとも教室では言いにくいことなのだろうか。


 いや、今までクラスメイトではあるけれど、それ以上の接点がなかった俺と七瀬さんが急に話し出したら目立ってしまうか。


 内容を確認すると『初めての兄妹でのお遣い』というメッセージと画像が一枚。昨日、夕暮れの空を撮っていた時に七瀬さんが撮った自撮りだ。


 ノスタルジックな背景とは対比的な七瀬さんの笑顔が収められている一枚になっている。


 こういう画像ってどうすればいいんだろう。とりあえず、保存はしたけど。


「なーに、その写真」


 学校だというのに俺は油断していた。油断していたというか、写真の中の七瀬さんを見ながらぼーっとしてしまっていた。


 香澄はストローの先を唇に当てながら身体を傾けて俺のスマホを覗いていた。


「ちょ、ちょっと、勝手に覗くなよ」


「だって、あまりにもニヤニヤ怪しい顔で画面を見ていたから、朝からエッチな画像でも見てるのかと思って」


「香澄の中で俺ってそんなキャラなの?」


 そういうことを教室で堂々とするようになったら俺はある意味無敵な気がする。失うものが何もないって感じ。


「男子なんて大体みんなそんなものでしょ」


「それすげー偏見だからな」


「そうかしら。それで、それどうしたの? 盗撮じゃないでしょうね」


 自分の家族を盗撮なんかするか。目線だってちゃんとカメラ目線になってるし。


「昨日、夕方にお遣い頼まれて、道案内がてら一緒に行って、そん時に撮ったやつだな」


「ふーん、でも、お遣いなのに楽しそう」


 きっとそれは夕焼けが綺麗だったからか、このあとに食べるパピコへのわくわくが抑えきれないからだろう。あのお遣いに楽しい要素は特別なかった気がする。


「だいたい、香澄はお遣いなんか行かないから楽しいとかそうじゃないとかわからないだろ」


「失礼ね。私だって、お遣いくらい経験あるわよ。小学生の頃に一人で買い物できないと困るだろうからって。近所のスーパーまでお遣いに行く練習をしたわ。ただ、街中やお店の中に変装したうちのお手伝いさんたちがいて私が失敗しないようにサポートしてくれていたけどね」


 はじめてのお●かいか! まあ、一人でお遣いに行って誘拐されても困るだろうけどさ。


 でも、香澄のお遣いの感覚と俺のお遣いの感覚って、料理が趣味の人が好きなものを作るのと毎日家族のためにご飯を作る親くらい違う気がする。


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