第17話【呟き】四元雅紀と十文字ヶ丘香澄の独り言
「ふー、食べた」
ばたりと自分のベッドに倒れ込む。
七瀬さんの言ったとおり美咲さんの手料理はとても美味しかったし、初めて俺の前で腕を振るうということもあってか品数も量も多かった。
俺も親父も美味しいからどんどん箸が進んでいつにも増して食べてしまった。でも、この調子で食べていたらすぐに太ってしまいそうだ。
美咲さんはやっぱり男の子はたくさん食べるわねと感心していたが、俺だって限界はある。親父経由でうまいこと量を減らしてもらえるように頼んでもらおう。
お腹は美咲さんの料理でいっぱいだけど、頭の中は七瀬さんのことでいっぱいだ。
昨日から一緒に暮らすようになったけど、俺が学校で今まで見ていた七瀬さんの姿と家にいるときに見る姿は全く違っている。
学校での七瀬さんは自分から前に出るようなタイプではない。どちらかと言えば、周りの女子に守られているお姫様みたいなイメージだ。だから、義理の兄妹になって一緒に暮らすようになっても俺の後ろに隠れているような姿を想像していた。
でも、実際は全然そんなことはない。
昨夜はベッドに押し倒されそうになった。
今日はパピコを半分こして渡された。
もちろん、パピコを兄妹で半分こして食べることはあるだろう。だけど、彼氏彼女が出来たらやってみたいこと百選の中にパピコを半分こして食べるは絶対に入っているだろ。
あの時そういうことを意識しないように兄妹ってことを強調した。そうしないと、変に意識してしまって普通でいられる気がしなかった。
名前のことだってそうだ。
七瀬さんにいろいろなイントネーションで連続して名前を呼ばれ続けるなんて、本当に勘弁してほしいと思った。あのまま続けられたのではこっちの理性というか気持ちがもたない。
確かに俺は七瀬さんにプロポーズのような言葉を言ってしまったけれど、やはり俺たちは兄妹だ。
兄妹なのだからちゃんとお互いに兄と妹をしないといけないし、そういう距離感と関係を守らないといけない。俺がそれを守ろうとしても七瀬さんはそれを簡単に超えてこようとする。そうされてしまうと俺は彼女を意識してしまい、頭の中が彼女のことでいっぱいになる。
全くなんて悩ましい義妹だろう。
― ― ― ― ― ― ―
★ 十文字ヶ丘香澄の独り言(香澄視点)
まさか、まさか、こんなことがあるなんて……。
私、十文字ヶ丘香澄は幼馴染でお隣さんの四元雅紀の家から帰ると、自室のベッドにうつぶせに倒れ込み、さっき知ってしまった驚きの事実を思い返していた。
事実は小説より奇なりというがまさにその通りだ。
雅紀のお父さんが再婚するという話は聞いていたし、雅紀から義妹ができるからどうしようと軽く相談もされていた。
そんなこともあって、漫画を返すという口実で雅紀の家に行ったら、まさか義妹として登場したのがクロエちゃんだなんてまだ信じられない。
クロエちゃんこと七瀬クロエは妹にしたいランキングぶっちぎりの一位のクラスメイトだ(私調べ)。あのくりっとした瞳、綺麗な髪、物腰丁寧でありながらときに見せる悪戯心など全てが愛らしく可愛い。
そんな子が雅紀の義妹になった。
もしかして、これは雅紀の手の込んだドッキリなのではないだろうか。いや、仕掛け人が雅紀と鳥嶋君ならその可能性はあるが、クロエちゃんが仕掛け人ということはない。
だいたい、雅紀とクロエちゃんは普段から話をしているところを見たことないし、親しいという感じでもない。
やはり、ドッキリなどではなく本当に雅紀と家族になってこれから一緒に暮らすのだろう。
となれば、やはりクロエちゃんがちょっと心配だ。
これまで浮いた話が特にない雅紀だけど、あいつだって私と同じ高校二年生だ。異性に全く興味が無いということはないはず。雅紀は家族だから全く何もないなんて言っていたけど本当だろうか。
私ならクロエちゃんが義妹になったらすぐにベッドに忍び込んで抱き枕にしながら一晩中でも愛でたと思ってしまう。
一応、誤解のないように言っておくと、私が女の子を好きとかではなくて、そのくらいクロエちゃんが可愛いということだ。
とにかく、雅紀が変な気を起こさないかこれからも様子を見ていかなくてはならないと思う。
とりあえず、今度クロエちゃんとお菓子を作る約束をしたから、その時に雅紀の様子をしっかりと聴取することにしよう。
しかし、雅紀のお父さんが再婚して、クロエちゃんが雅紀の義妹になったとなると、今までのようにしょっちゅう遊びに行ったり、夜遅くまで雅紀とゲームをしたりすることは控えた方がいいだろう。これが私にとってはかなり痛手だ。
私は雅紀と一緒にあいつの部屋でごろごろしながらお菓子を食べたり、無果汁で身体に悪そうなジュースを飲んだりしながらゲームをしたり、漫画を読んだりするのが好きだからだ。
そうやって一緒にいることが多いと鳥嶋君を始め多くの人が私と雅紀が付合っていると思うようだ。男女が一緒にいればすぐに愛だの恋だのということになるけれど、私と雅紀は恋愛感情ではなく、
ならばこの際、クロエちゃんを加えて三兄妹のようになるのもいいかもしれない。
そうなればクロエちゃんの可愛らしさを堪能しつつ、雅紀とも今までみたいにゲームをしたりしてごろごろと過ごすことができるというものだ。
一度、ごろりと転がって天井を見ながら大きく息を吐く。
まあ、どうなるかわからないけれど、いろいろ面白そうなことが起きそうな予感がする。
そう思いながら雅紀から借りてきた漫画を手に取った。
― ― ― ― ― ―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます