第14話【謎】女子ってすぐに仲良くなるのはなぜ?

「ねえ、クロエちゃん、クロエちゃんのお母さんと雅紀のお父さんが結婚したっていうのは本当なの?」

「は、はい」


 リビングに入るなり、香澄は七瀬さんの肩を掴んで問い掛けた。七瀬さんの方は香澄の気迫に押されるようにこくこくと頷きながら小さな声で答えた。


「香澄、七瀬さんが怯えてるから離してやってくれ」


 香澄ははっとしたように七瀬さんの肩から手を離してごめんねと言ってからソファーに座った。


 まあ、香澄が慌てるのも無理はない。俺だって顔合わせの時に七瀬さんがその場にいたことは、これまでの人生でベスト3に入るレベルで驚いた。


「雅紀の家でクロエちゃんが一緒に暮らすなんて、ライオンとウサギを同じ檻の中で飼うようなものだわ」


 それって、俺がライオンで七瀬さんがウサギって意味だと思うけど、俺からしたら昨夜のことがあるから立場は逆だからなと言いたい。まあ、そう言ったところで、何バカなこと言ってるのと突っ込まれるのが落ちなので言わないけれど。


「そんなに心配することないだろ。俺はそんなに危ない奴じゃない」


「わからないわ。年齢=彼女いない歴の雅紀とクロエちゃんのような可愛い子がいきなり同居するようになったら今まで抑えられていた欲望がむき出しになるかもしれないじゃない」


 何が悲しくて俺の彼女いない歴を香澄に把握されているのか。それだけ、一緒にいることが多いことの裏返しでもあるわけだが。


「十文字ヶ丘さん、四元君はそんな悪い人ではありません」


「香澄でいいわよ。うちの苗字長すぎだから。もちろん、私も今までの付き合いから雅紀が悪い人じゃないってことはわかるわ。今は手を出す度胸すらない男だけど、今後のことはわからないもの」


「度胸云々じゃなくて、俺と七瀬さんは


「そ、そうです……」


 七瀬さんが歯切れが悪く元気のない返事をしたから俺はまた変なことを言ってしまったかとドキリとした。


「でも、もし、クロエちゃんが身の危険を感じたらすぐにうちに避難しに来てね。なんならそのままうちに住んでもいいわ。うちは無駄に広いからクロエちゃんの部屋くらいすぐに準備できるから」


「香澄さんのお家って隣りと聞いていますが、あの大きなお屋敷が香澄さんのお家だったんですね」


 資産家である十文字ヶ丘家の屋敷は本当に大きい。我が家の隣りといっても道を挟んで隣りにあり、敷地だけで我が家の十倍を超える。住所で言えば、普通は一丁目二番三号というようになるところが、香澄の家だけ一丁目二番までしかなく、その区画全てが十文字ヶ丘の敷地なのだ。都心の住宅街で白く高い塀が長々と続くので、一見すると一般住宅ではなくお寺か昔の偉人の家が保存されている文化財の類ではないかと思われるくらいだ。


「古くて大きいだけの家よ。もちろん、避難じゃなくて遊びに来てもいいし、クロエちゃんならお泊りも歓迎よ」


 ウインクをしながら七瀬さんを勧誘する香澄の姿を見てほっとした。もともとクラスでもそんなに一緒にいることがない二人がどうなるかと心配していたけど意外と仲良くなれそうだと少しお兄さん目線で見てしまった。


「ありがとうございます。四元君は香澄さんの家に泊まったことはないのですか」


「ないな。よく幼馴染同士がお泊りしたり一緒にお風呂に入ったりしたというようなエピソードがあるけれど、俺と香澄にはない。もっとも、香澄と知り合ったのがここに住み始めてからだから小学校の三年生からだからな」


「そうね。泊まりはないけれど、中学の時に深夜まで雅紀の部屋でずっとゲームして遊んでから帰った時はおじいちゃんにしこたま怒られたことがあるくらいね」


「そうだな。あの時は俺も源隆げんりゅうさんにすげー怒られた」


 香澄の祖父の源隆さんは頑固じじいというか我が強く怒るとかなりおっかない。もちろん、うちに遊びに行くことを伝えていたとはいえ、中学生が深夜まで帰らなかったことが悪いわけなんだが。


「私はそういうこともしたことないから羨ましいです」


「クロエちゃんは友達の家にお泊りとかしてないんだ」


「学校の友達とは休憩時間や放課後に一緒に遊ぶことはあるのですが、お泊りはないですね。友達がうちに来て一緒にお菓子を作ったりしたことはありますが」


「クロエちゃんはお菓子作るのは好き? 好きなら今度うちで一緒に作ろう。雅紀は食べる専門で作らないから」


「ぜひぜひ、作りましょう」


 キャッキャッとトークに花が咲いて、俺は完全に蚊帳の外となってしまった。


 何というか、女の子ってけっこうすぐに共通の話題を見つけて話すの上手いよな。


 俺は一応客人の香澄にお茶も出していないと気付いて、お茶を淹れるためにキッチンへ向かった。


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