第13話【襲来】幼馴染にバレました

 昼ご飯を食べ終わり食器を片付けると俺はリビングのソファーに座って特に見たい番組があるわけではないがテレビをつけた。七瀬さんもソファーに少し間をおいて座っていて、何やらスマホを操作している。


 昼下がりのテレビはどの局も特に代わり映えしなく、旅番組やグルメ番組がだらだらと流れている。


 ぼんやりと画面を見ていると、昼前まで寝ていたのにお腹が満たされたことで再び頭がぼーっとしてきた。きっとこれは生理現象のようなもので、睡眠時間の長短に関わらず仕方のないものだなんて言い訳を考えていると。


 ピンポーン


 もやがかかり始めていた俺の意識がインターフォンの音で一気に晴れ、反射的に後方にあるインターフォンの画面を確認する。日曜日のこんな時間にやって来る人物はおおよそ想像できる。


 想像通りインターフォンの画面には黒髪をポニーテールにまとめて手には紙袋を提げている香澄の姿が映っている。


 紙袋の中身は先日貸した漫画だろう。


 香澄の家は両親の教育方針で漫画やゲームのたぐいを幼い頃から買ってもらえなかったので、ゲームをするのは専ら俺の家、漫画も俺の部屋で読むか借りて帰ることが多い。


「お客さんですか?」

「ああ」


 七瀬さんの問い掛けに短く答えると俺はすぐに玄関へと向かった。


 まずい、香澄には七瀬さんと義兄妹になったということをまだ伝えていない。


 伝えたのは親父が再婚する予定で、少し年下の義妹ができるところまでだ。


 別に香澄に七瀬さんが義妹になったことを隠すつもりはないし、隠せるものでもない。香澄が俺の家に頻繫に遊びに来るように俺も何かと香澄の家に行くことが多い。下手に隠した方が後々面倒なことになることはわかりきっていた。


 ただ、こういうことは上手く順を追って説明しないと変な誤解を生む可能性があるなんて考えていたら今日になってしまったというところだ。


「雅紀、あんた、もしかしてまだ寝てたの?」


 玄関扉を開けると香澄は開口一番ジト目で俺の服装を見ながら寝坊疑惑について追及してきた。まるで、一人暮らしの子供の家に抜き打ちでやって来た母親のようだ。


「いや、ちゃんと昼前には起きてた。ただ、外出予定がないから着替えていなかっただけだ」


「ふーん、そんなので大丈夫なの?」


「大丈夫って?」


「昨日、雅紀の家の前に引越し業者のトラックが停まっていたから、前に話していたおじさんの再婚相手と娘さんが引っ越して来たのかなと思ってね。雅紀が中学生くらいの女の子と一緒になるからどうしようなんて話していたじゃない。それなのにそんなだらしのない格好でいたらすぐに口もきいてもらえなくなるわよ」


 なるほど、そういうことか。確かに香澄にはそんな愚痴とも相談とも言えないような話をしていた。


 改めて考えると、いくら七瀬さんが寛大だとはいえ、あまり親しくないクラスメイトなのだからもう少しちゃんとした格好でいた方がよかったのかもしれない。全く知らない人ではなかったのでそのあたりの意識が甘かった。


「そうだな。次は気を付ける」


「なーに? その取って付けたような言い方は。せっかく人が心配しているのに。それで、例の義妹いもうととは上手くやっているの? 今、家にいるならちょっと挨拶くらいはしようかなと思っているんだけど。できるならその子とも仲良くなりたいし」


 香澄は俺よりもずっとコミュ力が高く社交性もあるから仮に義妹が七瀬さんじゃなくてもすぐに仲良くなったことだろう。


 ウキウキとワクワクが溢れている香澄には悪いがうちにいる義妹は去年から同じクラスのクラスメイトだ。


「えーっと、その義妹なんだけど、中学生だと思っていたら実は同い年だったんだ」


「マジで!? まあ、雅紀は誕生日が早いから同い年でも兄になることもあるわね。それじゃあ、学校はどこ? 意外とお嬢様校で挨拶が「ごきげんよう」と言わないといけない感じ?」


 香澄のワクワクはまだ収まらないようでスカートの裾をつまんでごきげんようの真似をしている。香澄の場合、家がかなりの資産家なので本物のお嬢様なのだが、普段の仕草にそれを感じたことはほとんどない。


「お嬢様校じゃなくて、俺たちと同じ高校だ」


「じゃあ、同級生と義理の兄妹になったの……、ちなみに何組の誰?」


 ここにきてあからさまに香澄のテンションが下がっていくのがわかる。


 わかる。知らない学校の子じゃなくて、同じ学校の同学年の子が急に幼馴染の義妹になったなんてやりにくくてしょうがない。


「それが実はクラスも同じで……」

「……もしかして、それってクロエちゃん」

「ど、どうして、七瀬さんだってわかった」


 俺のクラスには女子が十五人以上はいるのにどうしてわかったんだ。七瀬さんが義妹になるってわかった顔合わせの日以降も学校では今までと変わらないように過ごしていたのに。


「だって、雅紀の後ろに」


 香澄に言われて振り向くと玄関から続く廊下にあるリビングの入口からひょっこりと顔を出している七瀬さんの姿があった。


 七瀬さんって人見知りなのかな。でも、香澄は同じクラスだし、話したことも何度もあると思うのだけど。


 とりあえず、これ以上玄関で立ち話もと思って香澄をリビングに通すことにした。


― ― ― ― ― ―

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る