第7話【悲報】義妹(仮)に呼び出される
― 昼休み ―
見上げれば吸い込まれるような青空が広がっているが、俺の心は
今朝もらったメッセージでは昼休みに旧校舎の屋外階段で待っていますということだったけど、まだ七瀬さんの姿はない。さっき俺が教室を出た時にはクラスメイトに話し掛けられていたから少し遅れているのだろう。
それにしてもこんな
「こんなメッセージを送って来るなんて一体どういうつもりですか。四元君は変態さんですか。身の危険を感じるのでお母さんに再婚について考え直してもらっています」
などと罵られるのだろうか。
微睡む意識の中で送ってしまったとはいえ、俺のせいで親父の結婚にまで影響が出るのは是非とも避けたい。
それとも七瀬クロエ親衛隊が現れて、七瀬さんに対して出過ぎたまねをしないように教育的指導が行われるのだろうか。
まあ、七瀬クロエ親衛隊なるものが存在するか知らないけれど――。
「すいません。遅くなりました」
階段を駆け上がってきた七瀬さんは少し息を弾ませている。
「ぜ、全然待ってない。俺もさっき来たところ」
七瀬さんが来る前から緊張はしていたけど、彼女の声を聞いたら急に身体が熱くなって、口の中が乾いてしまって口が上手く回らない。
「私の方から呼んでいたのに遅れてしまうとは不覚です。ところで、四元君は今日のお昼ご飯って持って来てないですよね」
「ああ、俺は学食か購買でパン買ったりすることがほとんどだから。それがどうかしたのか?」
俺の返事を聞いた七瀬さんは階段の一段目にちょこんと座り、その隣のスペースを指さしながら俺にそこに座るように促した。
こちらの生殺与奪権は七瀬さんの方にあるのでここは黙って従うほかない。
「あ、あの、先日、ここで助けてもらった時にお昼ご飯まで四元君にお世話になって……、それでその時のお礼をしようと思って今日はお弁当を持ってきました」
「お弁当? えっと、七瀬さんは俺に話があるからここに呼んだんじゃないの?」
「今朝、あのようなメッセージを送ったのは、先日のお礼にお弁当を渡したいって書いたら、四元君は別にお礼なんかいいからって言うじゃないですか」
それについては七瀬さんの言うとおりだ。あの時、七瀬さんを助けたのはすぐ近くでクラスメイトが困っているのを素通りできなかっただけなのと、パンツを見てしまったことへの贖罪であって、お礼をされるようなことではない。
「だから、特に用件は書かずに呼出したってわけか」
「お礼といってもたいしたお弁当ではないのですが、食べてもらえますか」
七瀬さんは持っていたトートバックからラップに包まれたおにぎりとおかずの入ったタッパを差し出した。
「もちろん。せっかく七瀬さんが作ってくれたんだから。でも、本当にお礼なんてよかったのに」
七瀬さんの作ってくれたお弁当はおかかのおにぎり、ほうれん草のお浸し、ちょっと甘めの卵焼きなど、どれも毎日食べても飽きないような優しい美味しさだった。
昨夜の顔合わせが本格的な洋食だったから今日はこのくらいがちょうどいい。
「ありがとうございます。私も昨日の今日なので揚げ物とかよりもさっぱりしたものの方がいいかなと思って作ったのでよかったです。それにしても、昨日は驚きました。お母さんの再婚相手が四元君のお父さんだなんて全く考えもしなかったです」
「俺だってお店で七瀬さんの姿を見た時は滅茶苦茶驚いた。親父からは少し年下の
「それは私よりも若かったり幼いような義妹が欲しかったということですか」
七瀬さんは目を細めながら口を尖らして拗ねたような表情で俺の方を見上げた。
もしかして、俺にロリコン属性があるのではと疑っていませんか。
「ちがう、ちがう。中学生くらいだと反抗期真っ盛りだろ。そんな年頃の子がいきなり俺なんかと一緒に暮らすってことになったら、絶対に俺のことをバイ菌みたいに扱うだろうなと思って悩んでいたところ」
「そういうことでしたら、私も少し年上の
たしかに俺はパリピ系でもウェイ系でもないけど、それって七瀬さんにとって俺は人畜無害な存在ってことだよな。あまり喜ぶべきものでない気がする。
でも、これから家族として義理ではあるけど兄妹として生活をするならその方がいいか。嫌われたくはないけど、距離が近すぎるのもよくない。七瀬さんには俺のことを玄関先に置いてある信楽焼の狸の置物くらいに思ってもらえるといいのかもしれない。
お弁当を食べ終わって紙パックのお茶を飲みながら一息ついた俺は後から思えば気が緩んでいたのだと思う。
昨夜、間違って送ってしまった『俺と一緒に幸せになろう』について追及されなかったから、七瀬さんはきっと『(家族として)俺と一緒に幸せになろう』という意味に捉えていると思ったし、お礼ということでお弁当を作ってくれて、顔合わせの時のことも気さくに話してくれて……。
だから、気が緩んでぽろっと言ってしまった。
「お弁当ご馳走様でした。ほんと、こんなに美味しいと料理なら毎日でも食べたいな」
「そ、それって、やっぱり……」
顔を俯かせながら耳まで紅くする七瀬さんを見て、まずい怒らせてしまったと思った。
「な、七瀬さん、今のは毎日食べたくなる美味しさだったという意味で、決してこれからも毎日お弁当を作って欲しいって意味じゃないから」
「えっと、お弁当は……、今は引っ越しの準備とかで毎日作るのは難しいですが、引越しが終われば、一人分作るのも二人分作るのも手間はそんなに変わらないので気にしないでください」
「それでも、そうやって七瀬さんの世話になるのは悪い気が――」
「そんなことないです。むしろ、一緒に住んでいるのに私の分だけ作って四元君の分を作らないということの方が変ですから、それに毎日食べたいなんて言われたら……」
隣に座っている七瀬さんは俺の方を向きながら被せ気味に言った。終わりの方は何やらもにょもにょとしていてよく聞き取れなかったけど。
階段に並んで座っているからもともと距離が近かったけど、直接こちらを見つめられるとその近さを余計に感じてしまう。
やっぱり、七瀬さん可愛すぎだよな。
「そ、それじゃあ、ほんとに負担にならない範囲でお願いします」
七瀬さんにお弁当を作らなくてもいいよというような理由がこれ以上浮かばなかったことと、彼女の気迫に押されてお弁当作りをお願いした。
でも、この時は気付かなかった。
俺の発言を七瀬さんがあんな風に受け取っていたなんて。
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