第6話【注意】寝落ちしそうな時のスマホ操作
親父の結婚に向けた顔合わせが終わり、自宅に帰ってシャワーを浴びた俺はあまりの疲れからばたりとベッドに倒れ込んだ。
せっかくのおいしそうな料理だったのにほとんど味覚えてないな。
美咲さんは俺があまり緊張しないように話してくれていたと思うけど、それでも肩に力が入ってしまうし、話す時の言葉だって選びながら話すから頭も使う。
これから一緒に暮らすことを想像するだけでぐったりしてしまう。
それにしても、親父が話していた少し年下の女の子がまさか七瀬さんだなんて、いまだに信じられない。
たしかに俺は五月生まれだから、同級生の中でも誕生日は早い方だ。だけど、七瀬さんの場合、年下というよりは同い年という方が正しい。
たしかに見た目は幼いけどさ。
七瀬さんは親父と美咲さんが結婚して、俺と一緒に暮らすことをどう思っているのだろう。
今日の顔合わせの席では、あからさまに嫌な顔をしていなかったから絶望的にこちらの印象が悪いということはなさそうだ。
ちなみに俺の方は七瀬さんと一緒に生活をすることをちょっと厄介だと思っている。もちろん、あれだけ可愛い七瀬さんと一緒に暮らせば目の保養にはなるかもしれない。
でも、一緒に暮らしていることがクラスメイトなんかにバレれば、そこら中の男子生徒の妬み嫉みの対象になる。波風立たせず平凡に暮らしていきたい俺にとっては大問題だ。
大きく溜息をついてから寝返りをして仰向けになり、ポケットからスマホを取り出した。
天井の照明が眩しいからそれをスマホで遮るようにして登録されたばかりの七瀬さんの連絡先を見つめる。
会食が終わる頃に美咲さんがこれから家族になるのだから連絡先を教えてと言って、美咲さんと一緒に七瀬さんとも連絡先を交換した。
男子生徒なら誰もが欲する七瀬さんの連絡先をこのような形で手に入れてしまったことにちょっとした罪悪感がある。
しかし、連絡先を交換したのだから何か挨拶程度のメッセージを送った方がいいだろう。
普段のLIMEでのメッセージが完全に連絡や報告ばかりの俺にとって、そうでない文章を送るというのは夏休みの宿題の読書感想文くらい難題だ。
当たり障りのない内容でちょっと親しみがあるようなメッセージを考える。
『今日はお疲れ様。これからもよろしく』
あまりに面白みも感情も何もない。定型文過ぎる。
『急なことで驚いていると思うけど、学校と同じ感じでよろしく』
学校と同じ感じってなんだ。普段は挨拶しか交わさないのに。これだと俺は七瀬さんとこれ以上仲良くなるつもりはないって感じじゃないか。
『これからは義兄妹だから。お兄ちゃんって呼んでいいぞ』
二度と口をきいてくれないかもしれない。場合によっては親父の結婚すら破談になりかねない。
これ超難問だろなんて思いながら、書いては消してを繰り返していると、会食でいつもより緊張した時間を過ごしたからだろうか瞼が重くなってきた。
ヴー、ヴー、ヴー
アラーム設定されていたスマホのバイブ音にハッとなった。
カーテンの隙間からは朝日が差し込み、スマホの時計は起床する時間を表示している。
変な格好で寝たせいで肩が痛い。肩を回して、軽くストレッチをしている時に、ふと思い出した。
そうだ、七瀬さんに送るメッセージを考えていたら寝落ちをしてしまったんだ。
もう一度、アプリを起動して、七瀬さんとの会話画面を見た瞬間にまだ微睡み半分だった俺の脳は一気に覚醒した。
『俺と一緒に幸せになろう』
な、なんだこのメッセージは!?
画面には俺が送った覚えのないメッセージが送信されていて、七瀬さんの既読もついている。
まさか、微睡む意識の中でこんなメッセージを送ってしまったのか。このメッセージではまるで俺が七瀬さんにプロポーズをしているみたいじゃないか。
既読がついているから取り消しをしても手遅れだ。
七瀬さんがこのメッセージを俺の下手なジョークだと思ってくれればいいけれど、今現在、返事がないところからするとその望みは薄い。
ならば『もちろん、家族としてだよ』と送るのはどうだろう。
いや、これもダメだ。これが有効なのはメッセージを送った直後に連続して送った場合だ。今みたいに一晩経って、しかも七瀬さんからの返事がずっと来ない状況で『もちろん、家族としてだよ』なんて送ったら、あまりにも不自然過ぎる。
「あぁぁー、どうやっても八方塞がりだ」
頭を抱えながらもう一度ベッドに倒れ込んだその時、
ヴッ、ヴッ
アラームとは異なる間隔のバイブ音はメッセージの着信を知らせるものだ。
送信者の七瀬クロエの名を見ただけで心臓が大きく跳ねる。
『今日の昼休み旧校舎の屋外階段で待っています』
絵文字もスタンプもない文字だけの簡素な返事が表示された。
これは絶対に
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