第5話【超驚愕】義妹がクラスメイト
親父の再婚については問題ないと思っているけど、新しくできる妹のことまで考えると憂鬱な気分になり、その気持ちが晴れないまま美咲さんたちとの顔合わせの日がやって来た。
親父の再婚に向けた両家の顔合わせの会場は神楽坂の石畳沿いに佇む一軒家の小洒落たレストランだ。
普段は町の中華屋やファミレスくらいでしか外食をしないからこういうお店に来ると少し緊張してしまう。
服だって今日のために親父がわざわざ新しいジャケットを買ってくれたからそれを着ているが、どうも馬子にも衣裳という気がしてならない。
お店に着いて予約していた個室に案内されたが、まだ美咲さん達は到着していなかったので、一度お手洗いに行くことにした。
用をたした後、手を洗いながら鏡に写る自分を見て笑顔の練習をしてみる。
俺は身長が高くて、目つきの悪い顔をしているから初対面の人には怖がられてしまうことが多い。幼稚園くらいの子なら泣き出したっておかしくはない。
だから少しでも良い印象を持ってもらえるように数日前から鏡の前で笑顔の練習をしているのだが、どうしてもぎこちなく不気味なものになっている気がする。
まあ、無愛想よりはマシか。
笑顔の練習を切り上げて、親父のいる個室の前まで戻ると中から女性の声が聞こえてきた。俺がお手洗いに行っている間に美咲さん達が到着したようだ。
軽く深呼吸をしてから、さっき練習したばかりの笑顔を作って、扉を開けると親父と美咲さんと中学生の女の子ではなく、なぜか中学生の女の子の代わりにクラスメイトである七瀬さんがいた。
「な、七瀬さん?」
「四元君!?」
紺色のブラウスに白のレースの入ったスカートというコーディネートの七瀬さんは、今まで制服姿しか見たことのない俺にとってはとても新鮮に映った。
しかし、七瀬さんの貴重な私服姿よりもこの場に七瀬さんがいるというインパクトの方が強すぎて、俺はドアを開けた時の笑顔が張り付いたままになっている。
一方、七瀬さんは驚きと戸惑いが入り混じった表情で小さな口をぱくぱくさせているところだ。
「あら、二人とも知り合いなの?」
美咲さんも七瀬さんほどではないけれど驚いた表情をしている。
驚いた時の目の感じが似ていて、美咲さんと七瀬さんを見るとこの二人は親子なんだと思えた。
「はじめまして、四元雅紀といいます。七瀬さんとは同じ高校でクラスも同じなんです」
最初の挨拶についていろいろなパターンを想定して準備していたのに全く役に立たない状況になってしまった。
それにしても、美咲さんとは初対面だけど、クラスメイトの前ではじめましてって挨拶するの恥ずかし過ぎだろ。
軽くお辞儀をしながら挨拶をして再び顔を上げた時に七瀬さんの方を見ると、さっきと同じ様にまだ口をパクパクさせている。七瀬さんの周りだけ空気が薄いのだろうか。
「こちらこそ、はじめまして、七瀬美咲です。これからよろしくね。雅紀君」
丁寧なお辞儀をする美咲さんは先日親父が見せてくれた写真よりもずっと綺麗で、七瀬さんのお姉さんだと紹介されたら全然信じてしまうくらい若く見えた。
美咲さんは自分が挨拶を終えると隣にいる七瀬さんにあなたも挨拶しなさいと促すように腰のあたりをぽんぽんと叩いた。
「は、はじめまして、七瀬クロエです。よ、四元君には日頃からとてもお世話になっています」
七瀬さんは親父の方を向きながら普段学校では見せないような緊張した声で挨拶をした。
きっと、親の再婚相手の連れ子がクラスメイトという俺にとっての想定外は七瀬さんにとっても想定外に違いない。
親父は七瀬さんの挨拶を受けて、こちらこそよろしくと返事をすると、立ち話もなんだからとテーブルに着くように促した。
俺と親父が並んで席に着くから必然的に俺の向かいには七瀬さんが座ることになる。
席に着いた七瀬さんは俺と目が合わないようにするためだろうか伏し目がちでいる。
俺だってこういう場でクラスメイトと向かい合わせで座るなんて思っていなかったから恥ずかしいというかどうしていいかわからない。
とにかく今はこの顔合わせが無事に、そして早く終わることを願ってやまないところだ。
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