第4話【驚愕】知らないうちに親父が婚約してた
―その日の夜―
英語の課題が一段落したのでちょっとお茶でも飲んで休憩しようかと思った俺は自室からダイニングに向かった。
ダイニングではちょうど仕事から帰って来た親父が俺がラップをして冷蔵庫に置いていた夕食を電子レンジで温めているところだった。
「おかえり、今日も遅くまでお疲れ様」
「ああ、今の部署は前よりも忙しいからな」
親父は俺が小学生の時に離婚してから、男手一つで俺を育ててくれている。昨年からは俺が高校生になったということもあって、それまでセーブしていた仕事を増やしているようで以前に比べて帰ってくる時間が遅くなっていた。
「味噌汁もあるから温めようか」
「ありがとう。気が利くな」
親父はご飯の準備ができるのが待ちきれないのか電子レンジの前で立ったまま缶ビールを開けるとそのままぐびりと一口飲んだ。
「くぅーー、やっぱり、仕事の後の一杯はたまらないな」
ビールが仕事の疲れにどんなふうに効くのか俺にはまだわからないが、親父は仕事の後はいつもビールを一缶だけ飲むことを習慣にしている。
「ところで、学校はどうだ?」
「ぼちぼち。赤点はないけど、上位でもないってところ」
「そういうことじゃなくて、彼女はできたかってことだ」
「その質問でそっち方向の答えを求めていたのかよ。普通はどう考えても学生として本分である勉きょ――」
そこまで言ったところで、今日の昼休憩の七瀬さんとのことが不意に思い出された。
もちろん七瀬さんは俺の彼女じゃない。友達だというのもおこがましいくらいだ。
ただ、俺が渡したパンを食べている時に見せた笑顔が反則なくらい可愛くて、それをまた見たいという気持ちはあった。
「ん? どうかしたか」
「い、いや、なんでもない」
軽く自分の頬を叩いて煩悩を振り払って、親父の夕食の準備を進める。
親父は相変わらずご機嫌にビールを飲んでいるが、そのペースでは準備ができる頃には空になるぞ。
「雅紀も高校生なんだからそろそろ彼女ができてもいいのになって思ったんだけどな」
「今日はやけに俺の恋愛を心配しているようだけど、親父だって彼女いるのかよ」
「ああ、いる。というか、そろそろ結婚しようかと話しているところだ」
「えぇぇ!」
危なく味噌汁を入れたお椀をひっくり返すところだった。
それよりも何を急に言い出してんだ。
彼女? 再婚?
「なんだ。俺だって独身なんだから彼女がいたって問題ないだろ。それにお付合いが深くなれば結婚という話が出てきたって変じゃない」
今まで彼女がいるとか、デートに行ってくるとか全くそんな話はなかったから、親父の再婚話なんて青天の霹靂と言っていい。
でも、思い返してみればそれらしい兆候が全くなかったわけではない。
母さんと離婚した直後の親父は萎びた茄子のような感じで覇気もなく、子供である俺の方が親父を心配したくらいだった。それでも時間が経つにつれて徐々に元気を取り戻してきて、俺が高校に入る頃にはおしゃれにも少し気を使いだしていた。
イケオジやちょいワル系でもない親父がちょっと色気づいたり、若作りしたりしていたから、会社で可愛い部下でもできたのかなくらいに思っていたところだ。
でも、まさか、俺の知らないところで彼女ができていたとは驚きだ。
年頃の息子に彼女ができないのに親父に彼女ができるなんて……。
つーか、自分が再婚する話をしたいからわざと俺に彼女がいるかって話を振ってきたに違いない。食えない親父だ。
まあ、再婚については親父がいいと思う相手ならそれでいいと思った。
どうせ俺はあと何年かしたら家を出るつもりでいるから、それまで上手くやっていけばいい。適当にいい息子を演じて親父が幸せに暮らせるならそれでいい。
「――雅紀が結婚について賛成してくれてよかった。きっと
美咲さんというのは親父の再婚相手の名前で、さっき親父が自慢げにスマホで写真を見せてくれた。黒髪が綺麗で人懐っこい笑顔が印象的な綺麗な
「この家も俺と親父の二人だけじゃ無駄に広かったから三人で暮らすようになればいい感じになるかもな」
「ん? 三人じゃないぞ。まだ、言ってなかったけど、美咲さんには娘さんがいるんだ。たしか、雅紀よりちょっと年下の子がいる。だから、四人家族だな」
ちょっと、待ってくれ。親父の再婚だけでも情報量が多いと思っていたのに、少し年下の女の子までいるだって。
少し年下ということは中学生くらいだろうか。
女子中学生といえば反抗期まっさかりではないか。そんな年頃の義妹といきなり一緒に生活するなんて絶対に上手くいきっこない。女子中学生から見ればいきなり現れた男子高校生(イケメンではない)なんて最もいい扱いで空気であり、ほとんどの場合はバイ菌以下の扱いを受けることだろう。
憩いの我が家なのにすごく気を使いそう。というか、上手くやっていける気がしない。
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