環境的要因

空一

環境的要因

「この事件、犯人が分かりました。犯人は横田さん。あなたです!」

じゃん じゃん じゃん

屋敷の中の視線が、一気に横田さんに集められる。横田さんは、泣きながら動機を語っていった。

「うぅ〜、仕方がなかったんだぁ。」

これで一見落着。また私の女シャーロックホームズとしての名が、世間に知れ渡ってしまうだろう。そう、その時までは思ってたんだけど…

いきなり、会場の中の一人がぽつりと呟いた。

「本当に溝田さんは、横田さんが殺したんですかね。」

「え?」それはどういうことだろう。あれ程までに揃った証拠。そこから、横田さんが犯人ということは言い逃れできないはず。

「溝田さんが死んだ当日、外は雪が降っていました。それで視界を失った溝田さんは、運悪く横田さんに殺されてしまいました。」

「…はい。」

「ということは、これは、真犯人は突然の吹雪、という事になりませんか?」

「はあ…ん、はあ?」

いや、それはないでしょ。

しかし、会場の中のまた一人が、声を出した。

「確かに、その線もありますね。しかし、溝田さんは足腰が悪く、たとえ雪が降っていなくとも、横田さんに殺されていた可能性があります。ということで真犯人は、吹雪ではなく、横田さんの健康面にあると思います。」

「いや、ならないよ?」

また、別の一人が声を出す。

「異議あり。その線を追うなら、横田さんの家庭環境も視野に入れるべきです。溝田さんを殺した横田さんは、育った家庭が過酷で、子供の頃虐待を受けていました。そういった家庭環境が、横田さんを殺人という卑劣な行為に手を伸ばさせたのではないですか?真犯人は、横田さんの両親です。」

「いやだから、そういう話は裁判所でやる話であって…。」

「ちょっと待ってください!」

「もう次はなにぃ〜」

また、別の一人が口を開く。

「まずこの殺人は、日頃から私達が横田さんと溝田さんの関係を良好に保っていたら、起こらなかった事件なのではないですか?これまで私達は、この事件の犯人は単独犯だと考えていましたが、本当は共犯なのではないのですか?私達は、刑を受けるべきなんです!」

「いや、犯人は横田さんだから…」

「すみません。ちょっといいですか?探偵さん、さっきから何なんですか?横田さんが犯人、横田さんが犯人とブツブツと。その線ははっきり言って薄いです。」

「うすい?!」

「横田さんが犯人だと思える証拠はどこにあるんですか?」

「いや、だから証拠というか、本人が自供してるし…」

「はあ、本当にもう呆れましたよ探偵さん。今の時代、パワハラというものをご存知ですか?人はですね、追い詰められると、やってもないことをやってしまったと認めてしまう生き物なんですよ!これだから、日本の冤罪件数はいつまで経っても0にならないんだ!」

「追い詰めたというか、推理で真実を言っただけで‥」

「君はいじめられた側を分かっていない!」

「だれにも相談できないんですよ、いじめられた方は。」

「最近はインターネットを使った誹謗中傷が増えてきています。探偵さん、今のあなたを見ていると、そいつらとおんなじ香りがしますよ。」

「犯人もやりたくてやったわけじゃないんだ!」

「他にも環境とか、状況とか考えないとねえ。ただ犯人を見つけて、はいそれじゃ。じゃ、もうダメなんですよ。」

「いや、だから、え、は、はあ…?そう、なんですか?」

会場の中の一人が、探偵に微笑む。

「わかればいいんです。これから、私達と一緒に犯人を見つけていきましょう。」

「は、はい…。」

「じゃあ、本題に戻りますが、溝田さんを殺したのは誰なのか。いや、何が要因なのか。それについて議論していきましょう。」

「はい。私は思うんですが、溝田さんは日頃から周りの人に恨まれていました。職場の人たちや、近所の人たちなどへの態度が悪く、煙たがられていました。もし、ここで横田さんが殺さなかったとしても、いつかは誰かに殺される可能性が高かったです。なので、溝田さんを殺した犯人は、溝田さん自身、じゃないでしょうか。」

「なるほど。その推理、いいですね。」「確かに、そうかもしれません。」「これはこの事件解決ですかな。」「その線があったとは、脱帽です。」「そういう考え方があるのか…。」

「ということで、この事件の犯人は溝田さんということで。これにて、この事件を解決とします。皆さんお疲れさまでした。」


「「「 お疲れさまでしたー 」」」


Fin_

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環境的要因 空一 @soratye

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